…夢か現か幻か?
一体何が起こったのか……
いつまでも覚めなければいいと、心の奥底では思っていた。痛い夢でも、もう覚めないで欲しかった。
痛みは常に一時の痛み。過ぎれば、いつのまにか消えうせていく。
しかし、痛みはどこかからやってくる。それは、生きていく限り続いていく。
―――痛みは。
覚めない夢を覚ます、オブラートで包まれた痛みは。
目を開ければ、ここがどこであれ世界は存在していた。闇と光に包まれた世界。
ここがどこかとか、そんなことはもうどうでもよかった。
理由は分からない。でも、待っている人がいる。
祐太郎が、待っているんだ。
「ナツミ!」
祐太郎は、待っていてくれた。あの時、もう逢えないと思っていた。
理由なんてもうどうでもいい。この瞬間が来てくれただけで、きっと十分なんだ。
いや……本当は、十分なんかじゃない。
まだ、足りないような気がする。
残しているものがあるような気がする。
「やっと逢えたね、祐太郎」
祐太郎は浴衣を着ていた。あたしの知っていた祐太郎とは、……違うようで、結局同じだった。
長い長い日々が過ぎていたような気がした。でも、同時に「やっと」じゃなくて「また」だったような気もした。
「大丈夫だったか?……あれから」
あたしは、うれしかった。何があったって、絆は何一つ変わらないんだってことが。
「うん……淋しかったけど、あたしは祐太郎がきっと……きっと来てくれるって、分かってたから」
何があったって、何も変わらない。
だから、いつもこうしていられるんだと思う。
こうしていたいと、心から思える。
この世界は眩しすぎる世界。暗闇から出たからだけじゃなくて、
本当に輝いている。
「ナツミ、リンゴ飴食べるか?」
「うんっ!」
口の中に広がる甘さは、本当に現実のもののようであって、
時間を過ごすごとに感じる気持ちもそうなのだろう。
この世界がどうであれ、この気持ちは常に現実。
幸せな時間はどうあれ、幸せな気持ちだけは本物で。
いつか、虹が消えるように失われていく世界でも……
せめて世界が終わるまでは……
この時間が、続いて欲しい。
「でもさ……こうやっていると、本当に恋人みたいだよな」
「え……恋人じゃなかったの?あたし達」
「いや、でも……アキに怒られるし」
「そーゆーのは後でいいでしょっ!?こんなことめったにないんだし」
そうだよ。
こんなこと、めったにないんだよ。
もう、さよならかもしれないんだよ。
そう思いながら、祐太郎との時間は過ぎて……
出店の通りを出て、あたしたちは公園に行った。
ブランコに、腰を降ろす。
この世界だけは、静まりかえっていた。
「なぁ……こうやって、ずっといられたらいいよな」
「うん……ずっと、二人でね」
あたしは、祐太郎に右手を差し出した。
「……できるなら……そうしたいよな」
祐太郎は動かなかった。
あたしの右手は虚無の空を彷徨う。
この手を取ってほしかった。
「絶対できるよ。祐太郎なら、絶対。
ずっとそうだったもん」
できないと思ったら……本当にできない。
できると思うなら、できないことはない。
踏み出したら、きっと変われるはず。
願うなら、願うようになるはず。
「ごめんな……オレは、ナツミを見捨ててしまうかもしれない」
え?
頭の中が真っ白になった。
「でも、オレは……」
あたしの頭の中で、緑のシグナルが点滅していく。
何かが、消え去ろうとしている。
「ナツミを……絶対に……」
「祐太郎!」
あたりは、再び暗闇になった。
あたしの中のそのシグナルは、紅く。
血の如く、紅に染まっていた。
そして暗闇は消えてゆく。
「きゅ――…」
ワッフルだ。あたしのそばに、ずっといたんだ。
「ん…どうしたの…?」
「きゅ〜〜?」
あたしが今まで見ていた夢……
終わりはとっても淋しかったけど、……リンゴ飴のあの味も、二人の公園の風景も、
決して夢じゃない。
触れられないだけで、現実なんだ。
それに、祐太郎の言葉も現実なんだ。
絶対に、あたしを……
「今ね…楽しい夢…見てたの」
「きゅー」
楽しいのは、きっと嘘じゃない。
今まで見たことがなかったような、二人っきりの夢。
ずっと見たかった夢。
……そっか。
あたしは「願ったから、願ったように」この夢を見たんだ。
「祐太郎……どうしてるかなぁ…」
どこかで、祐太郎は生きている。
あたしの中では、それだけでもう十分だった。
「…きゅ〜……」
「やだ…どうしてワッフルが泣くの…?平気だよ、あたしは」
「きゅ…」
「あれ…?なんか眠い…ごめん…あたしまた…寝るね…」
このまま目覚めなければ、それはそれで幸せなのかもしれない。
祐太郎の夢を、ずっと見ていられるのならば。
多分それは叶わない。痛みは、必ずやってくる。
どんな痛みかは分からない。
……でも、その痛みの果てに、希望が待っているのなら……
それでもいいのかもしれない。
目覚めたときに、笑顔があったのなら。
「…きゅ――――」
「花火……か」
それは闇を彩り、光で染めるもの。
そして、儚く消えてゆくもの。
あまりにも美しすぎる夏に咲く……華。
千の夢を彼らに見せて、一夜の闇に帰す。
その闇に、いつか再び陽が昇る。
あの日沈んだ陽は、黄金色。
昇る陽は、どんな色をしているだろう。
蒼か、翠か、藍か。
朱か。
「……きっと、叶えてみせる。
絶対に……
だから、待ってろ……」
パンッ! ひゅるひゅるるる…
「ナツミ……」
また一つ華が咲き、散ってゆく。
いつか咲く華への、余韻を残しつつ。
「祐太郎……」
夢を、また見ていた。
「絶対だよ……」
今度、逢うときには。
迷わないで、手と手をつなごう……。
二人がつながっているという証さえあれば、
それで十分なのだろう。
しかし、それは見えないから……
だから、不安になる。
迷い、何度も立ち止まる。二人とも、同じように。
そして最後には、二人一緒に。
いくつもの夢に見たあの日々は、再び彼らの心の中に……。
そのときの結末は、また違ったものになって……。
また、華が咲く。
消えない、華が咲く。
…夢か現か幻か?
真夏の夜の幻影か。
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