| ■妖刀一閃■ |
えーと、萌イラストだけで終わらせるつもりだった涼子と朔の話なのですが、描いてるうちにだんだん話が纏まってきたので
100のお題に絡めて書いていこうと思います。
※これの前振り話が上部リンクの先にありますので、できればそれも読んでいただけると分かりやすいかもです
| 100のお題 31題目〜40題目 |
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31題目 鎧 「時雨、入っても良いかしら?」 白雪は月子の手紙を涼子から借り受け、時雨の部屋へとやってきた。どうぞという声に白雪はそっと襖を開ける。 「白雪、どうした?こんな時間に」 どうやら時雨は鎧の手入れをしていたらしい。所々刀傷や焼け焦げた跡のあるそれは、どう贔屓目に見ても床の間に飾っておく部類の品ではない。 「また懐かしいものを…」 白雪が呟くと、時雨は苦笑して振り向いた。 「もう二度と使うこともあるまいとは思うのだが、何となく、な」 肩鎧には何箇所か、矢を受けたと思しきくぼみが見て取れる。籠手に残る大きな傷に、そっと白雪は指先を滑らせた。 「もう、あれから何年経つのかしらね」 「それは実際の年数?それとも歴史上の年数?」 「そんな事言ったら500年位経ってるじゃないの」 茶化すような時雨の言葉に、笑いながら白雪は答えて返す。 「…これ、月子の手紙…」 ひとしきり笑った後真顔に戻ると、先ほど涼子が読んでいた手紙を白雪は時雨に差し出した。驚いた表情で時雨は受け取る。 「月子の?何故こんなものが…」 「涼子ちゃんが幸恵さんから受け取った月子の日記に挟まれていたらしいの…読んでみて」 白雪に促され、手紙を開く。読み終わると、時雨はぽつりと呟いた。 「因縁とは、あるものだな…」 「やはり、この手紙に出てくる3つに分けられた妖っていうのは…」 「お捨さんの事、かな…」 苦々しい表情で時雨が呟く。おすて、とは時雨たちが元いた時空での友人の名だ。 妖の身でありながら人に恋をし、自身のその強い妖力を恐れて身を3つに裂いた妖。 白雪たちは彼女の苦しい胸のうちを知り、人への転生を手伝ったのだ。 「あの時、彼女から分離した妖の魂は、引き裂かれたことを怒り、お捨の体に戻ろうと暴れた。その魂をどことも知らぬ時空の果てへと流したのは、この私…」 暗い瞳で白雪が呟く。 「妖の力を持つことを仲間達に知られ恐れられたあなたは、戦の最中、仲間の謀略により炎の中に取り残された。私は禁を破り、時空を越えてあなたと共に逃げ出した…。その先でまさか、その時の妖と係わる事になるなんて」 「因縁だったのだろうな。この世界に来て最初に出会ったのが、お捨さんの子孫である月子だったのも、そして涼子が生まれるこの時代にやってきたのも」 「全て、私の責任だわ…。私があの時、妖の魂に情けをかける事無く消滅させていれば、月子も殺されることはなく、風子ちゃんが悲しむこともなく、涼子ちゃんが苦しみを受けることもなかったのに…」 「白雪…」 俯き、唇を噛む白雪にかける言葉を捜しあぐねて、時雨はそっと肩を抱き寄せた。 「それに、もう私は時空を読む力が殆どない…未来を変えすぎてしまったせいで、もうどの未来がどの過去から続いているのかが分からなくなってしまって、下手すれば今以上の悪い状況に未来を変えてしまう可能性だってあるわ。それが怖くて、もう力を振るうことも出来ない…。助けたいのに、みんなを守りたいのに、出来ない!!」 叫ぶような白雪の言葉に、時雨は肩を抱く腕に力を込めた。 「…だから、せめて涼子だけでも俺達で守ってやろう。始や月子の代わりに。今度こそ悔やまないように」 31題目 鎧 です。少し時雨たちの過去を出してみました。そして補足〜。時雨たちは戦国時代から時を渡って来た異邦人です。元々人のふりして生きてた時雨ですが、切り札として邪眼の力を使っていたのを仲間達に気味悪がられ、戦のどさくさに紛れて火を放たれ、殺された過去があります。で、当時既に時雨と親しくなっていた白雪は彼の死を受け入れられず、過去へと遡り、歴史を変え、それにとどまらず時空を超え二人で逃げてしまいました。 逃げた先で最初に出会ったのが月子と始の二人。妖の一人である月子は二人を匿い、その中で友人になったという設定が…。 さて問題。以上の説明文の中にどれだけの萌えキーワードが隠れているでしょうか。も、萌え〜〜!! あ〜!!どんどん二人に関しての設定が出来上がってくる〜!番外編描きてええ! ちなみに白雪が指先でなぞっていた籠手の傷。あれは二人が出会った事件の時に時雨が庇って付いた傷なので、白雪的に忘れられない思い出になっていたり。 |
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32題目 歌 「さて、と。さっさと帰るかな。あいつらに見つかると又面倒だし…」 放課後、こそこそと隠れるように朔…もとい藤原高志は下校の準備を始めた。何かとちょっかいを出してくるクラスメイトに見つからないように、手早く教科書を鞄に放り込む。 「そういや涼子は、今日は部活だったっけ…。ちょっとだけ覗いてくか」 いそいそと校庭へと赴いた朔だったが、ちょっとばかり早すぎたらしい。まだ涼子の姿は見えない。 「…ま、着替えたり準備もあるもんなぁ。仕方ない、帰るか」 少しばかりガッカリした口調で呟き校門へと踵を返したその時。 「よお、藤原〜。俺達を置いて帰るなんてひどくね?ひょっとして逃げる所だった?」 ぎくりとして足を止める。会いたくない相手に見つかってしまった。 「いや、別に…逃げたわけじゃ」 ゆっくり振り向くと、思ったとおり、いつものメンバーがにやにやと笑っている。 『…めんどくさい事になったなあ…早く開放してくれるといいんだけど』 はあ、と思わず漏れたため息に、少年の一人が眉を吊り上げる。 「ああ?お前何馬鹿にしたみたいなため息ついちゃってんの?マジむかつく」 言うと校舎の陰へと引きずっていかれ、思い切り腹を蹴り上げられた。大した痛みは感じないが、痛がる振りをしなければ開放してもらえないのでその場にうずくまる。 「はは、マジでよえーな、お前。で?金持って来た訳?」 「金なんて…無いよ」 「んだと?!今日こそ5万持って来いって言っといただろーが!」 言いながら朔を殴りつける。 『まあいいや、こうして殴らせとけばそのうち疲れて開放してくれるだろ』 と、のんびりと朔が構えていたその時。 「…なにやってんの、お前」 ふいにどこかで聞いたような声が響いた。誰だっけ、と顔を上げた朔の顔が、一気に引き攣る。 『こ…こいつ!海でいきなり襲ってきた男だ!』 海でいきなり殺気満々で襲ってきた男−確か俊太と呼ばれていた−が、心底驚いたような、あきれ返ったような顔でこちらを見ている。 「何でお前ほどの力を持った奴が、こんな弱っちい人間に好き勝手やられてんだ?指先一つでダウンさせられるだろーが…」 「ああ?!誰が弱っちいだと、てめえ!」 俊太の言葉にカチンときた少年の一人が前に進み出る。 「!よせ!!そいつに近づくな!」 「うっせーな、俺は朔と話してんだよ」 朔の制止の言葉も聞かず俊太に近づいていった少年が、軽く振った俊太の手の甲に弾き飛ばされ、植え込みに突っ込んだ。 何が起こったのか分からず、皆呆然としている。それほど俊太の動きは早かった。普通の人間では目で追う事も出来ないだろう。 「お前の気配を感じてよぉ、こないだの続きを闘ろうと思って来てみりゃ何だこりゃ?」 「…こっちにはこっちの生活ってのがあるんだよ。ここじゃやれない」 「んあ?ああ、そうかそうか。目撃者がいると本気でやれないってか…なら」 にやりと残忍な笑みを浮かべる。 「こいつら全員殺しちまえば良いってこったな」 と言うが早いか、手近に立っていた少年に本気の拳を繰り出す。少年の目には、俊太が消えたようにしか見えてはいまい。 人間がその力を受ければ、脳が潰れ即死は免れない。朔の瞳が赤い輝きを放つと、俊太以上の素早さで少年との間に入り込む。 右手で俊太の拳を受け、左手で肩口を押さえ込むと、そのまま右手を下へとぐるりと回し、わきの下に捻り込む。 下手に堪えようとすると、肩の骨を砕かれることに気付いた俊太は、そのまま力を受け流しくるりと回転すると膝蹴りを繰り出した。 素早く離れた朔を捉え損ねた蹴りは、校舎の壁に大きな穴を空ける。 「その姿でそれだけの素早さか…やっぱいいなお前、楽しいぜ」 足を穴から引き抜きながら、心底嬉しそうに俊太が笑う。呆然としていた少年達が我に返ると悲鳴をあげて逃げ出した。 何とか無事に少年達を逃がせたことにほっとする朔に、俊太が訝しげな視線を投げる。 「頭おかしいんじゃねえの?お前殴って楽しんでたような奴を何で助けたりするんだよ」 「俺は人間と共生していくって決めたんだ。悪いけどあんたとやりあうつもりも無い。殴りたいってんだったらあいつらみたいに気がすむまで殴りゃいい」 「俺をあのクソみてーな人間と一緒にすんな!無抵抗な奴殴ったって俺は楽しくねーんだよ!おら、本気でかかってこいよ!やる気が無いってんならその気にさせてやる!」 朔の胸倉を掴みあげると思い切り殴りつけてくる。少年達の拳とは全く重さの違う一撃。口の中に苦い鉄の味が広がり、意識を持っていかれそうになる。 体、肩口、脇と次々に攻撃を入れられても、じっと耐え続ける朔に苛立ちを隠そうともせず俊太は叫んだ。 「つまんねえ!つまんねえ!!てめえ殺されたりはしないだろとか甘いこと考えてんじゃねえだろうな?!このままぶっ殺されてえのか!」 思い切り蹴り上げられて、朔の肋骨が嫌な音を立てる。がはっと漏れ出た息に混じり、鮮やかな赤が飛び散った。 『や、べ…もしかしなくても肋骨が折れて、肺に刺さったか?』 起き上がろうとするが、足に力が入らない。見れば嫌な方向に足が曲がっている。 『おいおいおい、マジかよ。あ、そうだった、俺変身してないから防御力が下がってるんだった…ちょっとこれってヤバいかも…』 胸倉を掴んで無理やり起こされたその時。緊迫したこの状況に似つかわしくない、まるで天使が歌っているかのような美しい歌声がどこからともなく流れてきた。 32題目 歌 です。朔大ピンチ。多分涼子のストーカーなんかしてるから天罰が下ったのでしょう(酷い)。今回はいまいち影の薄い朔を中心に持ってきてみました。いじめられっこですが、本人はあんまり気にしてません。面倒くさーとは思ってますが。 かなりのダメージを受けたみたいに見えますが、朔は腐ってもバケモノなので、このくらいの怪我ならすぐ治ります。取りあえず一晩寝れば骨もくっつく。 |
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33題目 翼 『すげー綺麗な歌声…誰だ?』 自分の置かれた状況も忘れ、朔はうっとりと歌声に聞惚れた…が、 『…って、んん?!何だこの歌詞』 「なーにーをぉ〜、してるのか・し・ら〜?ふうーこちゃんの言いつけを〜忘れ〜た〜のか・し・らああぁっふん!」 余りに変な歌詞に、朔はきょろきょろと辺りを見渡した。だが、歌い手の姿は見えない。そのへっぽこな歌詞と、美しすぎる歌声とのギャップに朔はよろめいた。 「ち…違うぞキノ!別に風子の言いつけを破った訳じゃ…へぶっ!」 歌詞の最後の「ふん!」は気合の掛け声だったらしい。慌てて朔の胸倉を掴んでいた手を離し、なにやら言い訳をしようとしていた俊太の顔面に少女の鮮やかな踵落しが決まった。 美しい金髪が光を反射しふわりと広がる。少女の背には大きな翼が生えていた。どこで歌っているのかと探しても姿が無いわけだ。彼女は校舎の屋上からその翼で舞い降りてきたのだから。 「こんな〜所で喧嘩するなんてェ〜、しかも〜、朔ちゃんにィこーんな大怪我までさせて〜、一体どーんな言い訳っをっするつ〜も〜り〜なのぉ〜?」 朔を背に庇うように仁王立ちになり、少女は俊太を睨みつける。 『あれ、この子って確かこの俊太って奴と、涼子の妹と一緒にいた子だ…』 「いや、その、言い訳って言うか、お前のその力があれば少しくらい暴れても大丈夫かなっと…なあ?!」 しどろもどろの弁明をしていた俊太が、助けを求めるように朔を見る。 「なあって…何の事だよ?」 いきなり話を振られても、朔には何がなんだか分からない。油断無く二人を見ながらゆっくり起き上がった。 「ほら、もう怪我治っただろ?な?」 「は?怪我?」 言われて朔は気が付いた。体中ボロボロにされたはずなのに、もうどこも痛まない。治癒能力の高い朔だが、いくらなんでもこんな短時間では治らないはずだ。 「え、あれ?何で怪我が治ってるんだ?」 「だろ?もう治ったよな?キノの歌声には治癒の力があるんだ。ほら、キノ!ちゃんと考えて大丈夫な程度に加減して・・・」 「言い訳無用!」 ぴしっと言い捨てると、くるっと朔に向き直る。警戒を解く事無く緊張している朔の前まで歩いてくると、キノと呼ばれた少女はぺこりと頭を下げた。 「ごめんね、朔ちゃん。こういうことにならないように気をつけてたのに、ちょっと目を放した隙に俊太が逃げちゃって…本当にごめんなさい!痛かったでしょ?」 しょげ返っている少女からは悪意も殺気も感じられない。朔は少し警戒を解いた。 「いや、別に君が謝らなくても…。怪我も治してくれたみたいだし、どうもありがとう」 朔の言葉に少女の顔がぱっとほころぶ。 「じゃ、じゃあ許してくれるの?!」 「許すって言うか…まあ、別に無事だったしいいよ、って、うわ?!」 「ありがとう、朔ちゃん!良かったあ、仲直りだね」 急に抱きついてきたキノにオロオロする朔の背に、俊太の鋭い殺気が突き刺さる。 「おいテメー!何キノに抱きついてんだ!とっとと離れろ!」 「こ、これが抱きついてるように見えるか?!逆だろどう見ても!ちょ、分かったから離れて…」 ぎゃあぎゃあと喚く三人の耳に、ざわめきが届く。どうやらさっき逃がしたクラスメイト達が、教師に報告したらしい。 凶悪な俊太に、羽根の生えたキノ。どう考えても人目に晒すのはまずい。 「おい、お前らこっちだ」 言って朔は走り出す。 「あ、おい!まだ話は終わってねーぞ!」 「待ってェ朔ちゃん!まだ用事が終わってないの〜!」 「後でゆっくり聞くから付いて来い!」 33題目 翼 です。やっと金髪少女の名前が出てきました。ホントはパピコにしようと思ってたんだけど、あんまりにもイロモノ過ぎるのでやめました。 今考えた裏設定。キノちゃんの名付け親は風子。名前の無い彼女に風子が考えてあげた訳ですが、自分の好きな物にちなんで付けようと、アイスのパピコとチョコのきのこの山とどっちかにしようとして、きのこ→キノと決まりました。 いつもは風子の言うことなら何にでも従う銀が、パピ子にしようとした風子に初めて異論を唱えたとは俊太の弁。いくらなんでもパピコは不憫だと思ったのでしょう。 |
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34題目 路地裏 「おい!どこまで行くんだよ!」 「いいから付いて来い!」 わめく俊太に怒鳴り返し、朔は薄暗い路地の奥へと向かった。 長い木塀とコンクリートの壁に挟まれた路地の奥は、昼間でも殆どひと気が無い。この辺りまで入り込めば大丈夫だろうと朔は足を止めると二人に向き直った。 「…で、何か俺に用があるんだって?」 「あ〜…俺的にはもう用は済んだ様なもんだからなぁ。キノ、任すわ」 そう俊太は言うと、頭の後ろで腕を組み、板塀に寄りかかる。どうやら本当に朔とケンカする事だけが目的で来たらしい。そんな俊太をあきれた表情で見やりため息をつくと、キノはポケットから何やら取り出して朔に歩み寄った。 「これ…涼子ちゃんに渡して欲しいの」 「手紙?誰からの…」 言いかけて裏返すと、風子の名前が目に入った。 「風子って、確か涼子の妹だったよな?」 「うん、そう。風子ちゃんには涼子ちゃんに渡すように言われてたんだけど、朔ちゃんでも良いって言ってたから。ほんとは風子ちゃん、自分で涼子ちゃんに会いに来たがってたんだけど、銀ちゃんが倒れちゃって」 「銀…?って誰だっけ?」 「あ、そっか。朔ちゃんは銀ちゃんを知らないんだっけ。多分涼子ちゃんは知ってると思うんだけど、あたしたちの仲間の一人なの。銀ちゃん、かなり容態が悪いみたいで、風子ちゃんずっと傍に付きっ切りになってるから…」 そう言うと、キノは心配げに眉根を寄せた。 「そうか…でもいいのか?俺がこれを涼子に渡す保証は無いぜ?中を開けて読んじまうかもよ?」 封を破る真似をしながら意地悪く問いかけるが、きょとんとした表情でキノは朔を見返した。 「何で?朔ちゃんはそんな子じゃないでしょ?」 想定外の無垢な答えに、朔は面食らって目を見開いた。不思議な少女だ。悪意や憎しみといったものをまるで知らないような。もしかして本当に天使なのだろうかとロマンチックなことを考え、朔は我に返って赤くなった。 「別に涼子ちゃんが許してくれたら読んでもいいと思うよ。風子ちゃんも涼子ちゃんが良いって言うなら構わないって言ってたし…あと、これ」 赤くなった朔を不思議そうに見ながら、キノはもう一つ何やら懐から取り出した。 「オルゴール…?」 「うん。風子ちゃんから涼子ちゃんにって。きっと覚えてるって言ってたけど、どういう意味かは良くわかんなくって…」 何の変哲も無い、手動で回して鳴らすタイプの小さなオルゴールだ。透明なプラスチックの箱に入っていて、中のからくりが丸見えになっている。 そっと回してみると、チロンコロンと音楽が流れ出す。どこかで聞いた事のある曲だが、何という曲だったかは思い出せない。 「…分かった、涼子に渡しておくよ。」 「ありがとう、朔ちゃん!涼子ちゃんによろしくね」 そう言ってキノは朔ににっこりと微笑むと、ぱっと表情を変えて俊太をにらみつけた。 「さ、帰るよ俊太!俊太はほっとくとすぐ問題を起こすんだから。ほら!」 ぎりぎりと俊太の耳を掴んで引っ張ると、キノはすたすたと歩き始めた。 「いでででででで!なんだよその態度の違いは?!お前は何で俺には冷てーんだよ!」 「うるさい!もう、風子ちゃんに言いつけてやる!」 「げえ!それだけは勘弁してくれ!」 キノの一言に俊太は青くなって引き攣った声を上げた。 ぎゃんぎゃんと騒がしい二人が去り、路地裏には静けさが戻ってくる。しばし佇んでいた朔だが、カバンに手紙とオルゴールをそっとしまう。 「とにかく…涼子が帰ってくるのを待つか…」 呟くと朔は帰路へとついた。 34題目 路地裏 です。やっとキノのアップが描けた〜。そのせいで背景がちまっこくなってしまいどこが路地裏やらな体たらく。とほー。 キノちゃんは本当に天然です。天然で明るくて可愛い子はめっちゃツボ〜。あまりの無垢さに大概の人は毒を抜かれてしまいます。凶悪な俊太もキノちゃんにはメロメロの様子。 なんつーか、ケンカの強い人が、精神的な力関係で強く出られないってのがめっちゃ萌え〜なんですよ。キノちゃんの踵落としも俊太にとってはさして痛手では無いんだけど、キノちゃんが相手だと精神的に1000のダメージ、みたいな。 風子がキノにお使いを頼んだのもその能力(?)を見込んでのことでしょう。もし他の人が手紙を渡しに来たら、朔は速攻で中を読んでたと思われます。 しかしこれでやっと34題…。100題まではまだまだ遠いのう…。 |
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35題目 ノスタルジィ 玄関からすぐにあるキッチンで、朔は手持ち無沙汰にオルゴールを眺めていた。チロンコロンという音色をぼんやりと聞きながら、一人呟く。 「うーん…絶対聞いたことあるんだけどなあ、この曲…何てったっけなぁ」 記憶の糸を必死で辿っていると、ふいに携帯が鳴った。誰からだろうと見てみるが、覚えの無い番号だ。 「…もしもし?」 いぶかしみながら出てみると、電話の相手は開口一番にああ良かったと安堵の声を上げた。 『藤原、無事だったか。担任の今林だけど、坂口から変な男に襲われたと聞いてな。お前だけ行方不明になってたから心配してたんだぞ』 ああそうか、と朔は合点がいった。あの後俊太たちと逃げ出してしまったため、坂口(例のいじめっこの一人だ)たちから見れば行方不明になったと見えるわけだ。 「すいません先生。あの後家まで逃げ帰ったんで大丈夫です。…はい…はい、すいません、お騒がせしました」 担任の教師にそう答え携帯を切ると同時に、ただいまと言う涼子の声が玄関から響いた。 「おかえりー、早かったな。今日部活じゃなかったっけ?」 平常を装いながら問いかけると、涼子は浮かない顔を朔へと向けた。 「うん、そうなんだけど…何か妖が学校で暴れたみたいでね…」 「へ?」 ぎくりと朔の頬が引き攣る。 「校舎の壁は壊れてるし、うちのクラスメイトがちょうどそこに居合わせたみたいで、一人行方が分からなくなってるしって事で急遽部活が中止になって…藤原君大丈夫かな…」 「多分大丈夫だと思うけど…」 聞こえないように呟いたつもりだが、耳聡く涼子は聞きつけ眉を吊り上げた。 「ちょっと、何無責任にそんな事…!まさか朔、あんたが暴れてったんじゃないでしょうね?!坂口君怪我してたわよ?!」 そういえば坂口は俊太の裏拳で吹き飛ばされてたっけ…と思い出しながら、何とかごまかそうと頭をフル回転させ、朔は慌てて風子の手紙とオルゴールを差し出した。 「違う違う!学校で暴れてったのは俊太って男だ。お前にこれを渡そうと思って学校に行ったらしい。そこでお前の事聞こうとして壁に穴あけて来たとか言ってた。脅しただけだって言ってたから、多分人間に大きな危害は加えてないだろ」 「俊太?誰よそれ」 首を傾げ、まだ少し疑うように朔を見上げる。 「羽根の生えた女の子と一緒にいた色黒の男だ。会った事あるんだろ?」 ああ、と涼子は合点がいったという風に頷く。 「で、ホントは風子自身がお前に会いに来ようとしてたらしいけど、銀って奴が倒れたとかで来れなくなったんだとさ。で、代理でその二人が来て、これをお前にって」 言いながら預かっていたオルゴールと手紙を渡す。 「銀…あの人が?倒れたってどうして?」 「いや、そこまでは聞いてない。で、たまたま会った俺が預かったって訳だ」 「…そう…」 心配そうに呟きながら、涼子はオルゴールを手に取った。くるくるとハンドルを廻すと、メロディーが流れ出す。 ちいさな機械から流れ出す美しい曲に、ふと涼子の瞳が揺れた。 「何だろう、この曲…どこかで…ずっと昔に…」 オルゴールを耳に寄せ、瞳を伏せるとじっと曲に聞き入る。 「何の曲だっけ、俺もこの曲どこかで聞いたような気がするんだけど、思い出せなくって…」 「ダッタン人の踊りよ」 ふいに問いに答える声が響いた。二人が振り向いた先には取り込んだ洗濯物を持った白雪が立っていた。 「ダッタン人の踊り…?」 「そう、ボロディンが作曲したオペラ、『イーゴリ公』の第2幕の曲。月子が好きで、良く口ずさんでいたわ」 二人の傍らでタオルを畳みながら白雪が懐かしそうに答える。 「…思い出してきた…ずっと昔、小さい時に…そう、誰かに抱かれながら聞いてた曲。もう一人、いつも一緒にいた女の子がいた…」 小さく独り言のように呟き、じっと耳を澄ます。 「懐かしい曲が流れてるな…」 オルゴールの音色に誘われて、また一人。 「隊長」 「あら、時雨。お仕事は終わったのかしら?締め切りは2日後よ」 「ちょっとくらいの息抜きは許してくれよ」 白雪の釘を刺すような言葉に苦笑しながら、時雨は涼子の隣に腰を下ろした。 「月子が好きだった曲だな。イーゴリ公の中で流れてた曲だったか?」 「そうよ、始がオペラ好きだったものね。月子はあまり興味が無いようだったけど、音楽は好きだったみたいで良く歌っていたわね」 白雪と時雨の語る自分の知らない両親の話に、涼子は嬉しそうに微笑んだ。 「そういえば始にビデオを貰わなかったかしら?もう10年以上前だけど…」 ふと思い出したように白雪の上げた声に、時雨は珍しく片目を開いて頷いた。 「ああ、そういえば…興味が無かったからどこかにしまい込んだままになってたはず…どこにしまったんだっけ?」 「時雨!探すのは良いけど仕事が済んでからにして下さいね?!煮詰まるとすぐサボろうとするんだから」 ビデオテープの捜索に移ろうと立ち上がった時雨に白雪の厳しい声が飛ぶ。悪戯を見つかった子供のような顔で肩をすくめると、分かったよ、仕事すればいいんだろ?と不満げに呟く時雨をひっぱって、白雪は仕事部屋へと連行していった。 親子ほどの見た目の年齢差があるというのに力関係は正反対な二人を見て、涼子と朔は顔を見合わせると忍び笑った。 35題目 ノスタルジィ です。懐かしい曲、懐かしい人々への追憶の感情。 ダッタン人の踊りって曲、大好きなんですよ。アニオタだとラーゼフォンの中でよく流れてたので知ってるって人も多いんじゃないかしらん。坂本真綾さんのニコパチってアルバムの中に入ってる『THE GARDEN OF EVERYTHING 』のサビの部分に使われてます。この曲はも・の・す・ご・く!お勧めです。是非是非聞いてみてください。 で、時雨ですが、一応いい大人なので仕事してます(当たり前だが…)。始が民俗学の研究をしてた関係で、時代考証や殺陣指導等を手伝ってたのが、徐々にその他の人達の手伝いをするようになり、今は演劇や舞台の台本をチェックしたり、自分の体験を基にした小説なんかを書きながら口に糊しているという訳で。 多分始が時雨にプレゼントした中で一番のものがこの仕事というものでしょう。始が色んな人に紹介してくれたおかげで何とか金銭を得て生きている訳ですから。 |
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35・5題目 起動 『…そう、とうとう見つけたの…』 「はい、教主様!教主様の仰ったとおりでした、『血喰らい』の気配を追っていけば必ず涼子に会えるって」 薄暗い部屋の一角、僅かに天窓から日の入る小部屋に風子はいた。そこに居るのは風子一人のはずが、もう一人の声が答えて返す。 『そうよ、風子。わたくしの言うとおりにしていれば、何も問題は無いのよ…』 きゅううんという機械音がして、風子がもたれ掛かっていた物が動く。それはマネキンのように見えた。ゆっくりとその腕が持ち上がると、風子の頭を撫でる。 信じられない事だが、そのマネキンが動き、喋っているらしい。その背からは長いケーブルや管がうねうねと生えていた。 気持ちよさそうに頭を撫でられている風子に、教主と呼ばれたマネキン−或いは機械か−が問いかけた。 『それで−いつ迎えに行くの?』 「そうですね…早いうちに行きたいんですけど、銀が涼子を迎えに行く時には自分も行くって言っていて。だから銀が回復するのを待って行こうと思ってるんです」 『そう…』 表情の無いはずのマネキンの顔に、苛立ちのような影が浮かぶ。と、教主の動きがぴたりと止まり、次いでひゅいんという機械音が続く。 「…?教主様?」 急に黙り込んだ教主にいぶかしみ、風子が振り仰ぐ。時折教主はフリーズのような症状を起こす。しばし見守っていると教主は再び活動を始めた。 『ごめんなさいね風子。ちょっと処理メモリが不足してるみたいで…もう大丈夫よ』 その言葉にほっとしたように風子はうなずく。 「あ、それでさっきの話なんですけど、銀の回復が何時になるか分からないので…」 「俺ならもう平気だ。風子」 言いかけたところで言葉を遮られ振り返ると、そこには銀が立っていた。 「銀!大丈夫なの?!ずっと寝込んでたのに…」 心配げに駆け寄る風子を見返し、もう平気だ、と繰り返す。 その様子に風子はどこか違和感を感じたが、銀が回復した事の方が嬉しくて、そう、良かった、と微笑み返した。 『良かったわね、風子。銀も治ったようだし。これで心置きなく迎えに行けますね…それで、いつ迎えに行くの?』 有無を言わさない物言いの教主に戸惑いながら少し考えた後、明日かあさって…と風子は答えた。 『そう、明日かあさって…ね。分かりました。…さあ、風子、もうお行きなさい。わたくしも準備がありますから』 「準備…ですか?」 『ええ、そうですよ。涼子を迎える準備をね…』 意味深げに教主は繰り返す。 「分かりました…失礼します」 一礼し、銀とともに退出する風子。パタンと扉が閉まり、部屋には教主が残された。しばしの後、教主の部屋の扉が再び開く。 と、ぼんやりとした表情の妖が一人、ふらふらと入ってきた。その目に生気は無い。 『ふふ、さあこちらにおいで…』 ぎちぎちと音を立てて、教主の体から生えていた無数の管が宙に浮き上がる。と、その管が妖に向かって次々と突き刺さった。 うぐう、と僅かに男は苦悶の声をあげるが、抵抗する素振りは無い。びくびくと痙攣を繰り返しながら、徐々にその体が小さく縮んでいく。 数分後。そこには只、教主だけが佇んでいた。 35・5題目 起動 です。どこにも入れられる余裕が無いエピソードだったので、仕方なく増やしてしまいました。これからもどうにもお題が無い場合はちょこちょこ入れてしまうかも〜。最終手段ですが。 で、どうしても風子と教主の関係を入れたかったので増やしてみました。正体バレバレな教主ですが、まあ一応…。 で、36題目に続くわけです。 |
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36題目 帽子屋 この所妖仲間の間で妙な現象が起こっている。ある日突然、特に何か事件に巻き込まれた気配も無いというのに、忽然と妖が消えてしまうのだ。 目撃者もいない、大きな物音もしない、遺留品すらない。失踪する理由も見当たらない者が忽然と消えてしまうこの珍現象に、妖たちは皆怯えていた。人間は誰もこの現象に巻き込まれていないことも又気味悪さを煽っており、何も知らない人間達は面白おかしくUFOに攫われたのだ、いや神隠しだとネットで書き立てているが、当事者である妖たちにとっては死活問題だ。 涼子たちの仲間にも、数人犠牲者が出ている。事態を重く見た白雪によって、単独での行動は厳禁とする通達が出され、時雨や朔たちは原因究明のためパトロールに出たりもしているが、今だ原因は不明のままだ。 そんな訳でミサトが街に買物に出ようとした時も、当然のごとく待ったがかかった。季節は巡り、今は秋口。そろそろ秋物が欲しいのだとダダをこねるミサトを救ったのは、涼子だった。 「白雪様、私が護衛に着きます。だったらいいですか?」と。 はじめは渋っていた雪であったが、血喰らいを持って出る事を条件に了承を得たのであった。 「あの…えっと、ごめんね涼子。つき合わせちゃって」 「いいのよ、私も秋物欲しかったし」 なんて事無いという口調で涼子が答える。はじめ、涼子が付いて来ると聞いた時は、ちょっとぎょっとしたミサトであったが、これはチャンスだと思い直した。 彼女はミサトにとって(一方的ではあるが)恋のライバルである。朔は隠しているつもりのようだが、涼子に惚れているのは間違いない。今回買物に出たかったのも、可愛い服を買って朔に見てもらいたいという乙女心からなのだ。 こうして恋のライバルと行動を共にして涼子を良く知れば、自分に無いものや朔が彼女のどこを気に入っているのかを知る事ができ、自分を成長させてゆくゆくは朔を振り向かせる事も出来るかもしれない。 『そうよ、これはチャンスだわ。涼子の考え方とか仕草とか、お兄ちゃんがどこに惹かれてるのかを見抜いて自分のものにするのよ!』 ぐっと心に決めると、早速ミサトは横を歩く涼子を観察し始めた。 陸上部に所属している涼子は、均整の取れた体つきをしている。痩せ過ぎでもなく、太ってもいない。適度に筋肉のついた足はすらりと伸びており、胸は体型の割には豊かだろう。 ミサトは自分のぺたんこなソレを見下ろし、むうと唸った。大丈夫、あたしはまだ成長期だし…ママはナイスバディなんだから将来性はあるもん、と誰に言い訳するとも無く一人心で呟く。 長い黒髪はサラサラのストレートだ。くるくるの天パで赤毛の自分とは正反対。切れ長の黒い瞳は冷たい印象を与えるが、笑うと柔らかな三日月形になり、そのギャップにはじめは驚いたものだ。 対する自分はくりくりとした大きな瞳を持っている。自分で言うのもなんだが、かなりの美人だ。 芸能界からの誘いも何度も受けているし、街を歩けば振り向かれるのもしょっちゅうだ。ラブレターも嫌になるほど貰っているし、出会った男の子の殆どに告白されてもいる。 なのに、だ。朔だけは全く自分の事など眼中に無いのがどうにも悔しい。他の誰でもなくて、朔だけに好きになって欲しいのに、一番好きな人には振り向いてもらえないのだ。 「…つもりなの?」 「へ?!」 ふいに涼子に話しかけられ、自分の世界に入り込んでいたミサトは慌てて聞き返した。 「だから、後は何を買うつもりなのかな、って…」 「あ!えっと、後は帽子が欲しいかな」 丁度いいところに帽子屋が目に入り、ミサトは店内へと駆け込んだ。ジロジロ見てたのばれてないかなとドキドキしつつ、ちょっと地味目のキャスケットを手に取る。 「帽子かぁ…私も一つ買おうかな。ミサトは帽子が好きなの?」 ミサトの挙動不審さには気付かなかったらしい。ニットの白い帽子を被りながら涼子は問いかけた。 「好きっていうか…必要不可欠って言うか」 まだ変身能力が不安定なミサトは、驚いたり体力が落ちていたりすると、耳や尻尾が出てしまう事があるのだ。尻尾はスカートで隠れるが、耳はごまかしが利かない。いつもツインテールにしているのはそのためだ。 でもたまには髪を下ろしたい時もあるし、そんな時に便利なのが帽子なのだ。 そう涼子に説明しながら、目立たない地味な帽子ばかり選んでいると、ふいにふわりと頭に帽子を被せられた。 驚いて見返すと、涼子が三日月形の目で微笑んでいる。 「ミサトは肌が白くて可愛らしい顔立ちだから、こういう明るい色が似合うと思うんだけど…」 鏡で見てみると、それは耳を隠すために帽子を選んでいた自分では決して選ばないタイプの、ピンク色に花飾りが二つ付いた愛らしい帽子だった。確かに可愛い。 「うん、良く似合ってる」 「そ…そう?じゃあこれにしようかな…」 ミサトの言葉に、涼子は嬉しそうに微笑んだ。同性だというのに、その笑顔に一瞬釘付けになったミサトは、はっと我に返るとくるっと涼子に背を向けた。 「…じゃ、じゃあ買ってくるね!」 あせあせとレジへ歩きながら、小さくミサトは呟く。 「…だいじょーぶよ、ミサト。あたしはまだまだ発展途上なんだから!負けてないんだから!」 36題目 帽子屋 です。今回はミサトちゃんが主人公。ミサトのお母さんはモデルをやってます。普通の人間より優れた者の多い妖ですが、ミサトの一族は見目麗しいものが多いのです。先祖に玉藻の前がいるとかいないとか。 ミサトはもう数年したら絶世の美女となることでしょう。何といっても自分を磨く努力を惜しまない美人ですから。 |
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37題目 ソファーで映画 「あー、楽しかったぁ!可愛い帽子も買えたし、もう少し寒くなったらブーツも欲しいな。その時はまた付き合ってもらってもいい?」 紙袋を両手に提げて、うきうきとミサトが涼子に話しかける。 「そうね、もう少ししたらバーゲンも始まるし…」 言いかけた涼子の足がふと止まった。訝しげに手にした『血喰らい』を見ている。小刻みに震える刀に、きゅっと眉根が寄せられた。と、ぱっと顔を上げると一点を凝視している。どうしたのだろうと涼子の視線を追っていくと、そこには一人の男が立っていた。 浅黒い肌に、きつい目つきの男だ。涼子に気が付くと軽く左手をあげる。 「だれ?あの人。知り合い?」 剣呑な男の風貌にミサトは警戒しながら、小声で涼子に問いかけた。 「うん…ごめん、ミサト。ちょっとここで待っててくれる?」 言うと涼子は足を速めて男の元へと駆け寄っていく。 「ちょ、涼子…」 涼子の背からはこっちへ来るなという無言のプレッシャーが漂っている。しかたなしにミサトは立ち止まり、少し離れた場所から二人を観察した。 男は涼子がすぐ目の前にくると、きつい表情を崩して笑いかける。対する涼子の表情は固いままだ。そんな涼子に男は参ったなあといった感じで頭をかいている。 『どういう関係の人だろう…。男の方は楽しそうだけど、涼子は嫌そうだし…。あ!そうか!別れ話の最中の彼氏か、もしくは言い寄られてるのを断ってるかなんかだ、多分』 勝手にそう結論付けて、ミサトはじっと二人に見入った。声は辺りの喧騒にかき消されて全く聞こえない。 何やら一方的に男の方が涼子に話しかけ、それを涼子がじっと聞いている。と、二人とも黙り込み、しばし佇んだ後、ゆっくりと涼子が頷いた。男はそんな涼子の反応に嬉しそうに笑う。 『何か頷いてる…。て事は何かに同意したって事よねえ。っていうか、待てよ?あの人と涼子がくっついたらお兄ちゃんも涼子のことを諦めるんじゃない?!ひょっとして今のって、付き合ってください、はい、だったり?』 よっしゃとミサトは心の中でガッツポーズを決めた。 男は涼子に笑顔で手を振り歩き去る。浮かない顔のまま涼子はミサトの元へと戻ってきた。 「ごめんねミサト、お待たせ」 「ねえねえ涼子、何だったのあの人!何の話だったの??」 好奇心丸出しの瞳でわくわくとミサトは涼子に話しかける。涼子は困惑した表情でミサトを見返すと、大した話じゃなかったわ、と視線を逸らした。 『こ、この反応は、やっぱり間違いないのでは?!』 自分と朔とのバラ色の未来を想像して、一人にやけるミサトであった。 「ただ今帰りました」 ガラガラと玄関を開けた二人を、お帰りなさいと笑顔の雪が出迎える。その後ろから何かを手に持って時雨もやってきた。 「涼子、例のビデオテープが見つかったぞ。夕食後に皆で見ようか?」 「あ、お父さんが隊長にあげたっていうテープですか?」 数日前、時雨が話していたオペラのテープ。暗かった涼子の表情にぱっと明るさが戻る。 「でも締め切りは大丈夫なんですか?確か今日までって…」 「それは大丈夫よ。ちゃんと終わらさせたから」 にっこりと微笑む白雪の横で、時雨が引き攣った笑みを浮かべている。しっかりこってり絞り上げられたのだろう、その顔に思わず涼子は噴き出した。 夕食後、リビングにてオペラの上映が始まった。朔も興味があったらしく、話を聞きつけやってくると一緒に見はじめる。。 わいわい突っ込みを入れたりして、朔も時雨も楽しげだ。 そんな中、はじめは楽しそうに見ていた涼子の表情が、少しずつ真面目なものに変わっていき、やがて黙り込むと食い入るように画面に見入りはじめる。 ふと涼子に目をやり、彼女のそんな表情に気付いた雪は心配げな瞳でそっと涼子を見やった。 37題目 ソファーで映画 です。割とひねらずそのままの意味で。涼子に話しかけてきた男は誰でしょ〜って俊太ですがね(あっさり)。奴だっていつも暴れてる訳じゃないんですよ、多分。 |
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38題目 天井 「どうしたの、涼子ちゃん。何だか顔色が悪いようだけど…」 心配げな雪の問いに、涼子ははっと我に返った。 楽しげに話をしていた時雨と朔も、雪の声に話を中断すると涼子を見つめた。 「え、いえ、何でも…」 と言いかけたが、勘の鋭い雪の目は誤魔化せないだろう。諦めて涼子はため息を付いた。 「…イーゴリ公は、どんな思いでヴラヂーミルを残し、一人国へと帰ったのかしらと思って…。」 「感情移入しちゃったの?」 雪の問いかけに、こくりと涼子は頷いた。 そんな涼子に「涼子は繊細だなあ」などと時雨は妙な感心をしている。 歌劇の中で、イーゴリ公は息子のヴラヂーミルと共に敵に捕らえられるが、オヴルールという男に脱走の手助けを受け、ヴラヂーミルを残し一人自国へと戻っていく場面がある。 イーゴリ公に自分を、ヴラヂーミルに朔や白雪、時雨達を、オヴルールに風子を重ね合わせて見ていて胸が苦しくなったなど、とても言えない。 先日風子から貰った手紙には、近いうちに迎えに行きたいのだが、銀が倒れたので少しかかりそうだという事と、もし一緒に連れて行きたい人が居るなら−例えば朔など−説得して連れてきてもいいと書いてあった。 悩んだが、朔達には黙って行く事に決めた。何より自分のわがままに他の人を巻き込みたくはない。 風子は人間や、人間と共存しようとする妖を憎悪している。 たった一人きりの妹。世界中が敵だらけに見えて、とても孤独なのだろう。人を憎み、人と共に暮らしたいと望む妖を憎むよう仕向ける教主とやらから助け出してやりたいのだ。そばに居てあげたい、そして出来れば平和なこちら側の世界に連れ戻したい。 朔も白雪も、無論時雨も、自分が居なくなれば驚き悲しむだろう。でも、風子を助けてやれるのは、姉の自分しか居ないのだ。 じわりと滲む涙を隠そうと、慌てて上を向くと、見慣れた天井が目に入る。 毎日見ていたものも、今日で最後かもしれないと思うと切なく目に映り、涙を誘う。 今日街で買物をしている途中、風子の使いで来た俊太に出会った。 銀の病気が良くなったので、明日風子が迎えに来るという。待ち合わせは初めて会った駅。そこに夕方6時に来られるかと問われ、急な話に戸惑ったものの、分かったと涼子は答えた。 もうずっと前から決めていた事とは言え、やはり仲間達に伝えず行くのは辛い。裏切り者と思われても仕方がないことだ。 もう二度と、今のような笑顔を朔たちが向けてくれなくなるかもしれないと思うと、ますます気持ちは沈んでいく。 それでももう決めたのだ、と、涼子は揺らぐ気持ちを叱咤した。 「…涼子の奴、なんかちょっと様子がおかしかったよな…」 ビデオを見終わり部屋へと戻る途中で、朔は一人呟いた。涼子は気付いていないと思っているかも知れないが、途中で涙を拭っているのを目の端で見ていたのだ。 と、その時。 「おにいちゃーん!」 という呼び声とともに、がばっと誰かが抱きついてきた。とは言え自分をおにいちゃんと呼ぶ人物は一人しかいない。 「何だよ、ミサト。こんな夜遅くに」 「えへへー、これ見てこれ見て!」 朔の質問は無視して、ミサトはその場でくるんと一回転してみせた。 これ見てと言われてもピンと来ない朔は、首を傾げる。 「見てって…何を?」 がくっと心でずっこけると、ミサトはスカートの端を持って振ってみせる。 「こ・の・服!可愛いでしょ?今日涼子と買い物に行って買ってきたんだけど、どう?似合う??」 「涼子と?」 再びミサトは心の中でずっこけた。反応して欲しいのはそこじゃなーい!と心で叫び、諦めずにもう一度、似合う?と問いかける。 「あ、ああ、似合う似合う。可愛い可愛い」 二回繰り返されるとどうも本気でないように思えてしまい、もう!とミサトは膨れて見せた。 「いや、ホントに似合ってるって。でも今日涼子と買物に行ったんだ。じゃあそこでなんか有ったのかな…」 後半は独り言のようだったが、ミサトは耳聡く聞きつける。 「そうそう、有ったのよ〜、事件が!」 服を朔に見せたいという目的もあったのだが、実はミサトはそれを話したくてここまでやってきたのだ。 「?何で涼子が沈んでるのか知ってるのか?」 「うふふふ〜、お兄ちゃん聞いたら絶対ビックリするよ〜、聞きたい?」 「え、まあ、そりゃあ…気にはなるけど」 妙に嬉しそうなミサトに、ちょっと引きつつ朔は答える。 「実はね…涼子、男の子に告白されたみたいなのよ」 「は?!」 「でね、オッケーしたみたい。頷いてたから」 殆ど全部ミサトの想像なのだが、もう彼女の中ではそれで決まってしまったらしい。ミサトの話に朔はしばしの間固まった。 「…そ、そうなんだ…。で…どんな奴だった?」 平静を保とうとしているのだろうが、ショック受けたの丸分かりな声で朔はミサトに問いかける。 「ん〜…結構カッコよかったよ。目つきはきつかったけど、涼子には優しく笑いかけてた」 「……へえ…そうか、へえ…」 「でね、この帽子見て!可愛いでしょ〜?それにこのワンピース…」 と、何やらミサトは話し続けているが、もう朔は上の空であった。 38題目 天井。何か自分が思ってたのとどんどん違う方向に進みだしてヤベーヤベーな感じです。大体時雨も雪もこんなに中心人物になる予定じゃなかったし、風子なんて欠片も出す予定ないキャラだったのに突然現れたし…銀とかも…。それを言うなら教主こそ何者だろう? やっぱりキャラは作者の手を離れて勝手に動く瞬間があるよなあと実感。でもそういう時は走るままに走らせると、いい感じに話を広げてくれるように思います。ミサトも一回限りのキャラのつもりがサブヒロインに昇格しました。ビックリ。 |
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39題目 夢の場所 気が付くと、涼子は見知らぬ場所に居た。辺りは薄白い霧に煙っていて、見通しが悪い。 『どこだろう、ここ…』 きょろきょろと見渡すが、何もない。足元すら何もなく、ふわふわと体が宙に浮いている。 と、かすかに人の話し声が聞こえた気がして涼子は耳をそばだてた。 「…なの?そんな事をしたら…では済まない…」 どこかで聞いた声だなと思いながら、涼子は声のする方向へと近づいていった。 霧が少しずつ晴れ、ぼんやりと下に人の姿が見えてくる。3人の人物が囲炉裏を囲み、何やら話をしているようだ。 「そうだ、思い留まった方がいい。どうなるか分からないぞ。大体自分自身の意識すら保てるかどうか…」 「時雨の言う通りよ。私の力だってどこまで役立つか…」 『時雨?!今時雨って…』 より近づいて目を凝らすと、そこには確かに時雨が居た。だが随分と年若い。青年と言って良いかどうかといった年頃−十代後半か二十になるかといった辺りだ。 『え、あれ?隣に居るのって白雪様?』 時雨の隣には今と同じ姿の白雪が座っており、何やら怖い顔をして目の前に居る人物を見つめていた。 『あの人は…誰かしら。見覚えのない人だけど、でも…』 どこかデジャヴを感じ、涼子はその女性をじっと見つめた。 長い黒髪、引き結ばれた口元。真っ直ぐに切りそろえられた前髪の向こうから、意志の強そうな瞳が覗いている。 「ありがとう、雪、時雨。心配して下すって。でも私、もう決めたんです。だからお願い、手伝ってくださいな」 何かを言いかけ、口を噤むと雪は悲しげに頭を振り、助けを求めるように時雨を見つめる。 時雨は少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。 「考えてみろよ、お捨。もしお前が上手く人に転生できたとしても、その男がお前を選ぶとは限るまい?最悪の場合、転生は失敗の上、お前と言う存在は消え失せてしまう。上手くいって転生が叶っても、男とめおとになれるとは限らない。随分と分の悪い賭けだとは思わないか?」 時雨の説得にも、女性の真っ直ぐな視線は揺らぐ事はなかった。 「…頼むから、思い留まってくれ。俺達は、お前を失いたくは無い」 もはや無理だと分かっているのだろう。俯き、目を伏せ、悲痛な声で時雨は訴えている。 「…だから、お二人に手助けいただきたいのです。可能性を少しでも高めるために」 三人の間に長い沈黙が訪れる。その静寂を破ったのは、雪だった。 「…分かったわ…。もう、決めたのね…」 「雪!?」 驚いた表情で時雨が声をあげる。 「もうここまでお捨が心を決めたら、誰にも止める事など出来ないわ。私達が協力しないといったら、お捨は一人で転生を行うでしょう。だったら、私は友人として協力するわ…。それしか、ないじゃない…」 本当は止めて欲しいのが本音なのだろう。握り締めた手のひらをじっと見つめ、雪は呟いた。 「ありがとう、雪…」 お捨と呼ばれた女性は、儚げな微笑を浮かべる。二人を見つめ、時雨も諦めたようにため息をつく。 「…分かった、俺も手伝おう」 と、再び視界が白く煙る。三人の姿が急激に遠ざかり、あっという間にどこかの草原へと移動した。 突然の場面変更に涼子は驚き辺りを見渡す。 『今度は何?隊長と雪様は?』 その瞬間、すぐ近くで凄まじい叫び声が響いた。 「がああああ!!戻せ!!戻せ!ぎゃああああ!」 『!!?』 慌てて振り返ると、そこには雪と時雨、そして先ほどの女性がおり、その周りを何やら青い発光体が飛び回っている。 「戻せ!私を体に戻せ!!」 叫び、意識を失い倒れているお捨に向かって飛び掛っていく。が、雪の結界が邪魔をして近づく事が出来ない。 「戻せ!私を、私に戻せ!!」 幾度も幾度も結界に体当たりをする発光体は、怒りに身を震わせるように大きく揺らいだ。 「悪いけど、この体を貴方に渡すわけには参りません」 お捨の体を庇うように、凛と立ちふさがり、雪は叫んだ。 尚も結界を破ろうと攻撃を続ける発光体が、ぎゃっと叫ぶと弾き飛ばされる。 妖力を漲らせた刀を、時雨が振るったのだ。 「悪いが…あんたを生かしておくと、お捨の身が危ないのでな。ここで死んでもらう」 冷たく言い放つと、発光体に切りかかる。ぎいと鳴き声を上げ、発光体は青白い光を時雨めがけて撃ち出した。 が、時雨が半身を捌いて避けたため、目標を失った光は背後の木にぶつかり弾ける。 光に触れた木は、当たった部分から枯れ始め、やがて音を立ててどうと倒れた。 それを横目で見ながら、時雨は真っ直ぐに光へと飛び込んでいく。再び撃ち出された光の弾を、刀で切り落とし、返す刃で発光体を鮮やかに斬りすてた。 がっと叫び声を上げ、光の玉が地面に落ちる。それでも必死で逃げようと、ふらふらと浮かび上がる光の前に、時雨が立ちふさがると止めを刺そうと刀を振り上げた。 そこに雪の制止の声がかかる。 「待って、時雨!!」 「…何故止める、雪」 油断無く構えながら、時雨は雪に問いかける。 「その魂は、お捨の一部だったもの…殺すのは、気が引けるわ。だから…」 言いながら、雪は念を凝らす。合わせた手のひらの間に白い輝きが生まれたかと思うと、その中心が黒く渦巻き、ぽっかりと空間が現れた。 「…遥かな時空に流しましょう。私達とは係わりのない世界で生きていけるように…」 そういうと、その空間に光を吸い込んでいく。青い光は抗おうとしたが、少しずつ雪へと引き寄せられていった。 「…必ず…必ず、私は体を取り戻す…!長い時を待ち、力を蓄え、再び一つに戻ってみせる…!!必ず…」 最後に不吉な予言を残し、光は雪の手のひらの間の空間へと姿を消した。空間をつぶすように雪がぴたりと手のひらを合わせる。 ため息をつき、二人はお捨の元へと歩み寄る。そっと覗き込むと、規則正しい呼吸音が聞こえ、ほっとしたように二人は顔を見合わせ微笑んだ。 「妖の本性は時空に流した。次は、妖力を引き剥がさなくては」 時雨に頷くと、雪は再び念を凝らし始めた。 お捨の体が赤く輝き、雪の手のひらへとその赤い何かが移っていく。しばしの後、ほっと雪が息をついた。 「これで大体の妖力は抜いたけれど、流石にすごい力ね。全部抜き取るのは無理だったわ。でも、普通の鬼女程度にはなったのではないかしら」 「それだけの妖力を抜いてもまだ残るって言うのか?!…そりゃあ自分の力を恐れるわけだ…」 雪の手のひらの上の妖力を見つめ、時雨は驚いた声をあげた。 「この力…どうしたものかしら」 困ったわと呟く雪の姿が急激に遠ざかる。あれっと思う間もなく全てが白い霧の中へと消えていった。 「!!」 はっと涼子は目を開けた。全身汗でびっしょり濡れている。 「…夢…?」 周りを見渡せば、見慣れた自分の部屋だ。どうやら全ては夢だったらしい。 「変な夢…それに妙にリアルだった」 思い返し、涼子は呟いた。夢と言うには何だか感じが違う。どちらかと言うと思い出したに近い感覚だ。 いやな感じがする。背筋がぞくぞくするような不安感。その不安感がどこから来ているのか分からない−分からないが、危険が近づいている−そんな感覚を覚え、涼子はぎゅっと自分を抱きしめた。 「…気のせいよね、ただの夢だわ、きっと」 と、自分に言い聞かせたその時、視線の端で何か赤いものが光っているのに気が付き、涼子はぎくりと身をすくませた。 夢の中で見た、妖力の輝きと同じ赤い光。その光を放っているのは血喰らいだった。何かを訴えるかのように激しく輝いている。 そんな血喰らいを見つめ、涼子はこみ上げる暗い予感に身震いをした。 39題目 夢の場所。31題に登場したお捨さんと時雨・雪の関係を書いてみました。言うまでも無くお捨さんは涼子のご先祖様です。上手い事転生が叶い、めでたく好きな人と結ばれたお捨さんですが、遥かな子孫の涼子たちにとっちゃあ迷惑千万な話ですな。 お捨さんはめっちゃくちゃ強い妖怪です。性格が穏やかなので無闇に力を振るったりしませんが、限界が来ると妖の本性が出て人の血を啜ってしまったり、寝ている間に何かを破壊してしまったり、といった自分の力を憎んでいます。 人間の男性に恋をし、結ばれたいと望んだときからますますその思いが強くなり、時雨たちに頼んで人に転生をはかったと言う訳です。 |
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40題目 都市伝説 寮の中には朝餉の良い香りが漂っている。昨夜の夢見が悪かったのと、今日寮から去ろうと決めているため暗くなっていた涼子の顔色が、その幸せな香りに少し明るくなる。 「…おはようございます」 「おはよう、涼子ちゃん。もうすぐ出来上がるから待っていてくれる?」 トントンと葱を刻んでいた白雪が、顔だけ振り向かせて涼子に微笑みかけ、ふと首を傾げた。 「涼子ちゃん、何だか元気がないみたいだけど…どうしたの?」 さすがに白雪は鋭い。まるで本当のお母さんみたい、と涼子は心の中で苦笑した。 「ちょっと怖い夢を見てしまって…あまり眠れなかっただけなので大丈夫です。きっと朝ごはん食べたら治ります」 「まあ、じゃあ早く準備しないとね」 と、二人が話している所に、大あくびをしながらミサトが現れた。 「雪様〜、涼子〜、おはようございます〜、お腹空いた〜あ」 成長期らしい物言いに、雪はくすっと笑いかけ、もうすぐだから涼子と話でもして待っていてと言い置いて、再び朝食を作り始める。 「ねーねー、涼子。最近流れてる噂、知ってる?」 「噂?どんな?」 「あのね、ほら、妖が消える事件があったでしょ?あれに関しての噂がネットで流れてるの」 待っている間手持ち無沙汰らしく、足をパタパタと振りながらミサトは涼子に話しかける。 「消えた人達は、選ばれた者として永遠の命を授かり、皆とある場所で暮らしてるんだってさ」 「なぁにそのあからさまに怪しい噂。嘘に決まってるじゃない、永遠の命なんて」 「都市伝説なんて怪しいものでしょ?口裂け女とか、人面犬とか。だけど…」 言って、ミサトはくるっと雪を振り返る。 「雪様は不老不死なんでしょ?」 「え?私?」 突然話を振られて雪は戸惑った。まさかこちらに話が飛んでくるとは思わなかったのだ。 「不老不死…といえば、まあそうなのかもね…。もう30年くらい前から私の時間は止まっているから年もとらないし…」 「ほらあ、まんざら嘘でもないかもよ?この都市伝説も」 「全く、変な噂信じちゃって…。ミサトは不老不死に憧れてる訳?」 あきれ返る涼子に、うーんとミサトは考えて答えた。 「良く分かんない…けど、年をとらないってのは魅力かな?ずっと綺麗なままでいられるって事でしょ?」 無邪気な答えに、雪は苦笑して言った。 「今時間が止まったら、ミサトはずっと子供のままよ?」 あ、そっかと今気が付いたというようにミサトは声をあげた。 「それに…不老不死なんて、そんな良いものではないわ」 何気なさを装った雪の声に僅かな哀しみの響きを感じ、涼子は眉をひそめた。 が、ミサトは気が付かなかったらしい。変わらぬ調子で雪へと問いかける。 「そうなんですか?じゃあ、不老不死の上にもう一つ何でも願いが叶うなら、雪様は何をお願いします?」 「そうねえ…」 出来上がった朝食を二人の前に並べながら、雪は思案した。 わくわくと期待の眼差しで見つめるミサトに、いきなりは浮かばないわとはぐらかす様に雪は答える。 えー、とガッカリした声をミサトがあげていると、おはようと時雨と朔が現れた。 朔の姿を見るや否や、ミサトはころっと今までの話を忘れて朔の元へと駆けていく。少しほっとしたように見送る雪を、涼子がじっと見つめていると、その視線に気付いた雪が振り向いた。 「ん?なあに?」 「あ、いえ…。何だか雪様が哀しそうだったから…」 「あら、そう?そんな事無いけど」 内心の動揺を隠し、時雨たちの朝食の準備をするため台所に戻る。 背後から響く明るい笑い声。知らず雪の口元がほころぶ。 が、先の話を思い出し、その表情が曇った。 自分は年を取らない。時空を渡る力を手に入れた時、呪いを受けたのだ。時を渡り、時を進む事は出来ても、自分自身の時間を進める事は出来ないという呪い。年を取らない、のではない、世界から只一人、時間から弾かれたのだ。 愛するものを失ってもなお永劫生きねばならないという呪い。 その呪縛を解くには、命を絶つほか方法が無い。 ミサトの積極的なアピールにオロオロしている朔をからかう、時雨の楽しげな声に振り返り、雪は愛する人の笑顔をそっと見つめた。 遥か昔、この地に流れ着く前、雪は一度時雨を喪っている。仲間に時雨が炎の中で行方不明になったと聞いた時の、あの衝撃。後ろから氷で殴られたような冷たい絶望。 まだそうと決まったわけではないからと雪を元気付ける仲間達だったが、皆の顔色から状況は絶望的なのだと知った。 それでも僅かな希望をかけて時空を渡り、焼け野原へと降り立ちその姿を探しさまよい歩き、そこで−…。 フラッシュバックした記憶に、雪はぐっと奥歯を噛み締める。 真っ直ぐにこちらを見つめるその瞳は、しかし何も映してはいない。白く濁った眼は力なく見開かれたまま。 そこから後の記憶は無い。ふと、過去へ戻り、未来を変えればよいのだと思いついた時には、時雨の死から既に1週間が経っていた。その間自分はどうしていたのだろう。未だにその間の記憶は戻っていない。 禁を破り過去へと戻り、炎の中で時雨を見つけた。四方を炎に囲まれ、諦めたようにぼんやり空を見上げている時雨を見つけた時、雪は分からない何かに、強く感謝を捧げた。神や仏と言われる者にか、或いは自分の呪われた力にか。 生きている。愛している人がここにいる。抱きしめる腕の温かさを感じ、雪はただこの人と共に居られればそれで良いと強く願った。 その願いは叶い、今も時雨は雪の側で笑っている。涼子や朔達、新しく出会った大切な者と共に。 だが、必ず別れはやってくる。自分が不老不死である限り、愛する者たち全員を見送る日が。 後何年だろう。人の寿命から考えて、もう30年共に生きられるかどうか。間違いなく彼は自分を置いて、黄泉の世界へと旅立ってしまう。 少しずつ、でも確実に近づくその日の事を考えると気が狂いそうになる。ぎゅっと胸の前で手を握り締め、雪は小さく呟いた。 「もし、願いが叶うなら…時雨と一緒に年を取っていきたいな…」 40題目 都市伝説。今回の主人公は雪さんです。漫画のほうでこの人たちの話描いてたら、なんか色々思い入れが出てきちゃって。元々気に入ってるキャラだったんで尚更。 主人公は涼子と朔のはずなんだけどな〜、どうも影薄いな〜。まあここからそれなりに目立ってくると思うので頑張ろう。うん。 ちなみに雪が回想の中で言ってた『仲間』というのは、今度の新作漫画の中に出てくる人です。さて、誰でしょう?(笑) |
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40.5a題目 どういう事だ? 寮を去る日、皆との別れを惜しみ、ぎりぎりまで寮にいた涼子だったが、流石に5時を過ぎたため立ち去る準備を始めた。 何の言葉もなく去るには悲しく思い、雪や時雨、寮のみんなに感謝の気持ちと謝意を込めた手紙を書き残す。母も―月子もこんな気持ちで友人や家族の元を去ったのだろうか、と涼子は遠い日の母の姿をぼんやりと想った。 と、その時、涼子は誰かに呼ばれた気がして振り向いた。だがそこには誰もいない。固く巻きつけた布越しに輝きが分かるほど強い明滅を繰り返す血喰らいがあるだけだ。 昨日の夢の事を思い出し、何となく不気味に思った涼子は、しばし迷ったが血喰らいを置いていく事に決めた。 もともと朔の持ち物だった刀だ。便箋の表書きに『朔ヘ』としたため、『血喰らいを返します。今までありがとう』と走り書き、そこから先の言葉を捜しあぐねて涼子はペンを止めた。 この手紙が朔にかける最後の言葉かもしれない。本当は書きたいことは沢山あるが、それら全てを書くには時間も無いし、言葉で書くとどうも本当に書きたい事とは違うように感じる。 しかたなしに、涼子は一度書いた文を消すと『さようなら』と短く纏め、血喰らいを包む布に挟み込んだ。 急いで出て来すぎたのかもしれない。約束の時間より15分ほど早く付きそうだったので、涼子は駅のすぐ近くの海岸へ立ち寄った。 そういえば、この海岸を朔と散歩したっけ…とぼんやりと思い出す。 風がひんやりと冷たい。空には星が瞬いている。秋の空は高く澄んでおり、見上げればどこまでも深い蒼穹が視界いっぱいに広がった。 「…涼子!!来てくれたのね!」 不意にかけられた声に心臓が飛び上がる。振り向くと、頬を赤く上気させた風子が駆けて来るのが見えた。 そのままの勢いで風子は涼子に飛びつくと、嬉しくてたまらないといった顔で涼子を強く抱きしめる。 「嬉しいよ涼子!私の言った事を信じてくれたのね。二人一緒に暮らせるなんて夢みたい!」 風子の言葉に心の中で『信じたわけではないんだけど…』と呟きつつ、 「たった二人きりの姉妹なんだもの、ね」 と、涼子は風子を落ち着かせるように肩をポンポンと叩く。 「よ、涼子!!来てくれたんだな」 「涼子ちゃーん!久しぶりィ」 風子の肩越しに、俊太とキノが歩いてくるのが見える。その後ろからやってくるのは…。 「銀、さん?」 いぶかしむ様に涼子は呟く。その疑問を含んだ問いかけに答えたのは風子だった。 「あれ?涼子、銀を紹介した事あったっけ?」 言われて、しまったと涼子は気付いた。銀とは会った事を伏せるという約束をしていたのに。 「…駅で、一度見かけたし、それに朔に、風子の仲間に銀って言う名前の人がいるって聞いてたから」 かなり苦しい言い訳だが、涼子は先の涼子の疑問符が推測から付いたものだと解釈したらしい。 「そう、あいつは銀っていうの。銀髪だから銀。覚えやすいでしょ?ちなみにこいつは素早い男だから俊太。金髪のコは、私の好きなお菓子のきのこの山から取ってキノっていうの」 「…い、いい名前ね…覚えやすくて…」 一瞬固まった涼子だが、由来はともかく合ってないと言う事もない…かな、と引き攣った笑いを浮かべた。 「涼子も俺達の仲間になるって事か、よろしくな!」 いつものキツい目つきを緩めて俊太が右手を差し出す。少し戸惑っていると、横から伸びてきた手ががっしりと涼子の右手を捕らえた。 「あたしはキノっていうの!よろしくね〜!よろしくね〜!!」 ぶんぶんと勢い良く手を上下に振られ、涼子はよろめきながら「よ、よろしく…」とやっとの事で声を絞り出す。 そして…。 「銀だ。これからよろしく、涼子さん」 その声を聞いたとき、涼子の背筋にぞっとするものが走った。昨夜、妙な夢を見て目覚めたときに感じたのと同じ悪寒。 ほとんど反射に近い勢いで飛び退り、身構える。 「ちょっと、銀!急に後ろから声をかけるから涼子が驚いちゃったじゃない!」 横目に睨みつける風子に、「すまない」と答えながらも、けして涼子から目を離そうとしない銀のその視線に、涼子は身の危険を感じ鳥肌を立てた。 まるでエモノを見つけた蛇のようなその目つき。舌なめずりするようなその表情。 昔、コンビニの前で声をかけられた時に感じた雰囲気とは全く違う。確認を取るように銀さん?と声をかけたのは、余りにも前と雰囲気を違えていたためだ。 前会った時の銀は、その瞳に優しさと穏やかさを湛えていた。 だが、今は…。 「あれ、そういえば朔はどうした?連れてくるのやめたのか?」 俊太の言葉に涼子ははっと我に返った。 「そういえばそうね。別に連れてきてもよかったのよ?仲良かったんでしょ?」 あいつも強いから戦力として大歓迎だし、と風子が続ける。 「朔は…関係ないから、連れてこなかった」 これは自分と風子の問題。朔に関係の無い事で危険に巻き込みたくは無いし…と心で呟いたその時。 「関係ない、か…そりゃないんじゃないか、涼子…」 急にかけられた声に、涼子は本当に心臓が止まりそうになった。聞き間違えるわけがない。この声は…。 「朔…!」 振り向けば、今まで見たことも無いような表情の朔が立っていた。怒ったような、とても傷付いたような、悲しそうな顔で。 ショックに足元がぐらぐらと揺れる。なんでここに朔が?そうじゃない、裏切ったわけじゃない、ただ風子を教主の下から助け出したいだけ、と喉元まで出かけた思いをぐっと飲み込む。ここで、風子の聞いている前でそんな事を叫ぶわけにはいかない。 混乱して黙り込む涼子に、一歩近づいて朔が苛立たしげに叫んだ。 「こりゃ、どういう事だ!?…俺達を裏切ろうってのか?!答えろよ、涼子!!」 朔の怒鳴り声に身を竦ませる涼子を庇うように前に出ると、風子は傲然と言い放つ。 「どうもこうもないわ、見たままよ。涼子は私を選んだの。そしてあんたは選ばれなかった。…そういう事よ。さあ、涼子、行きましょう」 俯き朔を直視できず立ちすくむ涼子の肩を抱き、すっと視線を滑らせ俊太に目配せする。 その合図の意味を正しく理解した俊太は、にやっと笑うと、涼子を追って走り出そうとしていた朔の前に立ちふさがった。 「てめえ!又…!」 「今日はめいっぱい楽しませてもらうぜ?風子の許しが出たからな〜。涼子を追いたけりゃ俺を倒してから行きな。」 とんとんと軽くつま先でリズムをとると、ちょいちょいっと手を振って挑発をかける。 その俊太の後ろには、無表情な銀も控えている。 二対一。そうこうしている内に風子と涼子はどんどん遠ざかっていく。 『やるしかねえか…』 ぎっと二人を睨みつけ、朔はゆっくりと身構えた。 40.5題目 どういう事だ? ですが…無理です無理です!すんませんが増やさせていただきます!!この後の話ももう一つ増やさせてくだされ!! え、えー…。40.5aと40.5bって事でどうかご勘弁を…(泣)減らす事はしないので。このままだと100題じゃなくなってしまう〜…(もうなっとるがね…)。 なんつーか、主人公が総受けな話って大嫌いなんですけど、コレって涼子総受けだよなあ…とさっき書きながら気が付いた。ぎえー。 そこいくとヒーローのはずの朔はかわいそうなもんだ。ベタベタなのってミサトだけじゃね?まあ朔だからいいか(酷い) |
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40.5b題目 ハジメマシテサヨウナラ 「嬉しいなあ、昔お前とやりあったのもこの浜だったよな?」 俊太は心底嬉しそうに笑っている。よほど戦いが好きなのだろう。それとは対照的に銀は無表情のままだ。 「戯言はいいからとっとと来い!」 涼子たちの妖気を見失えばもう追いつけない。焦れて朔は叫んだ。幸い風子の妖気は強いので、しばらくは消えないだろう。まだ間に合う。 先手必勝だと朔は俊太と銀の間へと踊りこみ、大きく尾を振るう。二対一では流石に勝ち目は薄い。 『先ずは俊太から!』 尾の鞭から逃れようと飛び退る俊太を更に追う。尾の回転はそのままに大きく廻し蹴り、連続してサマーソルト。 普通の人間なら足を避けたら終わりの所に、二撃目の尾の強打が時間差で追ってくる。しかも足よりもリーチがあるので、勢い大きく下がらざるを得ない。 そうして二人を引き離しておき、接近戦に持ち込む。朔の方から仕掛けてくるとは思わなかったらしい俊太は、足元のバランスを崩してよろめいた。 足場は砂地。一瞬の隙が出来る。 「くそ!」 俊太の口から焦りの叫びが漏れ出る。 「もらった!」 絶対の間合い。仕損じる事はない。俊太も朔も、これで決まると思ったその時。朔は左手から迫る殺気に気付き、身を捻ろうとした。 しかし俊太へと向いていた意識を引き戻すため、数瞬の遅れが生まれる。とっさに首筋を庇うので精一杯だった腕に、めりめりと何かが食い込み、そのまま肉を引きちぎっていった。 「う、ぐうう!」 反射的に何者かに向けて腕を、尾を振るうが、すでにそこには何もおらず、空しく尾は空を斬っただけだった。 見れば左手の肘から下、手首にかけての肉が大きく抉られている。骨が見えるほどの深い傷だ。痛みに呻きながら、何者の攻撃を受けたのかと視線を巡らし、そこに異形のものを見つけた。 月明かりに照らされる銀色の毛並み。長く伸びた口吻と、鈍く月の光を反射する、血に染まった長い牙。 くちゃくちゃと咀嚼し、何かをごくりと飲み下す。それが自身の腕の肉だと気付き、朔はぞっとする思いで異形を見つめた。 この場にいたのは、自分と俊太、そして… 「コイツが、銀って奴の正体か…」 銀色の人狼。朔が蜥蜴の異形であるのと同様に、銀は狼の血を持つ異形という事であろう。 朔の声に銀は赤い目を爛々と光らせ、正解だとでも言うように口の端だけをあげて笑って見せた。冷たいサメのような生気のない瞳に、形どおりに歪められた口元。人形が笑っているような気持ちの悪さに、朔の全身に嫌な汗が噴出す。 それは俊太も同様だったらしい。明らかに動揺した声で、「おい、銀…」と呼びかけたまま次の言葉が出てこない。 「もうお前に用は無い。涼子も私のもとにやってきたし、な」 抑揚のない声で銀が呟いた。『私』のもと?何の事だ、と問う間もなく、銀の姿が視界から消えた。 『!?どこへ…うわっ!!』 思考が全身を切り裂かれる痛みに寸断される。何も見えないというのに、確実に何かが自分の体を噛み千切っていく。闇雲に手足を、尾を振るうが、その全ては空をきるのみ。文字通り手も足も出ないまま、朔は意識を手放した。 「よせ!もうよせ銀!これ以上はいいだろ?!」 自分の体を半ば盾にするように立ちふさがり、俊太は銀を止めに入った。もはや朔の全身は、もとの体の色が判らぬほど自身の血で赤く染まっている。意識を失ったため、その姿はゆっくりと人へと戻っていった。 「キノ!キノ、いるんだろ?!早く来い!!」 俊太の叫びに、遠くから戦いを見守っていたキノがはっと気付いたように駆けて来ると、癒しの歌を歌い始めた。 流れ続けていた血が止まり、少しずつ傷口に肉が盛り上がり始めたのを見て、俊太はほっとしたように息をついた。 「…銀、お前、どうしちまったんだよ…最近おかしいぞ…」 恐る恐るといった風に、俊太は銀に問いかけた。そんな俊太を、先までの猛々しさが嘘のように感情の無い目で見返すと、銀は操り人形の様に口を開いた。 「おかしい?何がだ?俺は風子の命を遂行したまでだ」 「そりゃお前はずっと風子の言う事は何だって聞いてきたさ。でもこんな事するような奴じゃなかっただろ?!いたぶったり、嬲ったり、ましてや人を傷付ける事を好んでする奴じゃなかった!俺はいつも銀は甘すぎる、情に流されすぎるって言ってたさ、でも…!」 悔しげに顔を歪め、俊太は吐き出すように言葉を継いだ。 「…俺はあんたのその甘さが気に入ってたんだ…!」 俊太の言葉に同意するように、キノがそっと銀を振り仰ぐ。二人の視線を受けても、銀は平然としたまま。 「風子の命は果たした。帰るぞ」 「銀…!」 くるりと背を向け、銀は風子達の去った先へと歩き始める。 その背を、俊太とキノの悲しげな視線が追う。しかし、銀が振り返ることは無かった 「…っつ…」 しばしの後、朔はぼんやりと目を覚ました。全身が痛む。何が合ったんだっけと思い出そうとした所に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。 「朔!!」「朔ちゃん!大丈夫?!」 目の前の二つの顔−俊太とキノ−に、急速に記憶が戻ってくる。跳ね起き飛び退ると、全身に激痛が走り、がくりと朔は膝をついて呻いた。 「朔ちゃん、まだ完全に治ってないの!もう少し我慢して」 キノが慌てたように言うと、再び癒しの歌を歌い始めた。 「あいつは…銀とか言うあの男は…」 「すまねえ、あいつがここまでやるなんて思ってなくて…止めに入るのが遅かった」 「すまねえじゃねえ!あいつはどこ行った!涼子は…」 俊太の胸倉を掴み上げるが、いつもの威勢はどこへいったのか、俊太は朔にされるがままで俯いている。 しおらしい俊太に勢いをそがれ、朔は掴みあげた手を緩めた。 「な、何なんだよ、気持ち悪いな。いつもの勢いはどうしたんだよ」 「…銀の奴、何か最近おかしいんだ。ホントはあんな奴じゃねえのに…」 「おかしいも何も、俺は銀って奴を知らないんだ、本当はどんな奴だなんて事に興味は無い。それより風子と涼子はどこ行った?!」 「知らねえ…」 「てめ…!この期に及んで…!」 緩めていた腕に再び力を込めて捻り挙げ、殴るため振りかぶった右腕を誰かが掴んで止めた。 「本当に知らないの!多分教主様に引き合わせに行ったんだと思うけど、教主様の居所は限られた人しか知らないのよ!」 キノが朔の腕にぶら下がるようにして止めながら、必死で訴えかける。 「教主?…ほんとに知らないのか?」 「本当よ。教主様の居所を知ってるのは、あたし達の中では風子ちゃんだけなの!あたし達下っ端がお会いできるような方じゃないから」 どうやらその言葉に嘘はないらしい。ため息をつくと朔は俊太を解放した。 「…判ったよ。とり合えずは信じてやる。じゃあもう俺は行かせてもらう」 踵を返し、走り出す朔を、二人は止めようとはしなかった。力なく項垂れている俊太たちを置き去りに、朔は寮へと足を向ける。 どこに行ったのかさっぱり判らない。涼子が風子の元へ走った事は、恐らく今の時点では自分しか知らないだろう。 雪姫の力を借りれば、涼子の居場所がわかるかもしれない。そう考え付いた朔は、走りながら携帯を取り出すと寮へと電話をかけ始めた。 「…不気味なところね…」 うち捨てられた廃工場の中に、涼子と風子はいた。教主とやらに会わせたいから、と風子に連れてこられたのだが、その気味の悪さに涼子は身震いをした。 「ちょっと薄暗いからね。足元気をつけて」 風子は殆ど見えない中、さっさと歩いていく。慌てて涼子はその背を追いかけた。 真っ直ぐに伸びる廊下の先にある扉を開け、中に入ると風子は涼子を手招いた。恐る恐る入ると、ふいに声が響いた。 『…はじめまして、あなたが涼子さんね?』 機械の合成音のような声音に、涼子は驚いて背筋を伸ばす。 「そうです、教主様。私のねえさん、涼子です」 誇らしげに風子が涼子を紹介する。すっと側を風子が離れる気配がすると、ぱちんと音が響いた。 と、暗闇に明りがともる。どうやら風子が電気をつけたらしい。明るさに目が眩み、しばし目を瞬かせていた涼子だが、徐々に明るさに眼が慣れてくる。そっと瞳を上げ、教主の姿を目にして涼子は小さく悲鳴をあげた。 背からうねうねと蠢く管を生やしたマネキンが椅子に座り、こちらを見ている。生きているはずの無いその外観だが、瞳だけが生気に満ちて爛々と涼子を見つめていた。 この目は、と涼子の背にぞくりと悪寒が走る。先ほど、自分を嘗め回すように見ていた銀の目と同じだ。エモノを見る獣の瞳。 我知らず身を縮める涼子に、教主は優しく声をかける。 『…そういえば、血喰らいはどうしたのです?あなたが持っているはずでしょう』 何故そんな事を聞くのだろう、といぶかしみながら涼子は答える。 「血喰らい…ですか。あれは、置いて来ました」 『何故?!』 ふいに荒げられた教主の声音に、さらに涼子は縮みあがった。 「教主様…?」 風子が驚いたように声を上げ、涼子を慰めるようにその肩を抱く。と、がらっと声音を変えて教主が笑い始めた。 『はははははは!運の悪い子だねえ、血喰らいを持ってきたなら暫く戦力として生かしておいてやったものを。あの刀が無いんじゃお前の使い道など“器”以外に無いじゃないか」 器、という言葉に涼子は弾かれたように顔を上げた。 「うつわ…。うつわ、って…まさか」 見る見る涼子の顔が青ざめる。 『おや、その様子だとお前、自分が器だという事に気が付いているようだねえ。血喰らいを置いて来たのはそのためかい?』 くつくつと嘲る様に笑う教主に何も言えず、涼子は青い顔で教主を見つめた。 『…だが無駄な抵抗さ。器を手に入れれば血喰らいは自分から一つに戻ろうと私のもとに来るが定め』 と、その背に蠢く管が、ぎちぎちと音を立てて涼子を取り囲む。 『じゃあさっそくその体を貰い受けようかねえ』 管が生き物の如くのたうつと、涼子を捕らえようと滑るように宙を走った。 と、その涼子の姿がふっと消える。 「どういう事なのですか、教主様!涼子に何をなさるのです!!」 涼子を腕にかかえて管の攻撃を逃れた風子が、戸惑ったように声をあげる。 『ああ、そうか…。お前の事をすっかり忘れていたよ。私としたことが、器を前にしてすっかり舞い上がってしまったらしい』 「さっきから器とかなんとか…訳が判りません!何故涼子を襲うのです!」 一人訳が判らず混乱する風子は、説明を求め声をあげた。 『うるさいねえ、外れくじが。やっとお捨の子孫に双子が生まれたってんで喜んだってのに、器じゃない外れの方を引いちまうなんてねえ、運の無い事だよ。…まあ戦力としてそれなりに役立ってくれたがね』 言いながら、操り人形の様にぎこちなく立ち上がった教主の全身から、妖力が赤い光となって立ち上る。 『この時空に雪と時雨が来ているんだろう?なあ、涼子』 何とも言えず黙っている涼子を無視して教主は続けた。 『昔、あいつらに煮え湯を飲まされた事があってねえ。見つからないように妖力を抑えていたんだけど、こうして器を手に入れたからにはもうこれも必要ないね』 言うと、教主は胸元からきらきらと光る何かを取り出した。それを目にした風子が叫び声を上げる。 「それは、母さんの封妖石…!何故教主様が…」 もう楽しくてたまらないとでもいうように、教主はのけぞり大きく笑い声をあげる。 『何故?何故って?ははははは、もう判ってるんだろう?誰がお前の母親を殺したか?ほおら、これまで私を守ってくれていたお前達の母親の形見だよ』 ぽーんと無造作に投げ出された封妖石のペンダントが、転がってくると二人の足元で止まる。風子は信じられないという表情で拾い上げ、わななく唇で言葉をつむいだ。 「うそ…ですよね?教主様…。だってあんなに優しくしてくださったのに…」 泣き笑いのような表情で見返す風子に、教主はもとの優しい声音で冷たく言い放った。 『お馬鹿さんねえ、風子は。母の仇に良い様に操られた挙句、大切な大切な姉さまを私のニエに連れてきてしまうなんて』 その言葉に、風子の表情が変わっていく。泣き笑いから絶望、怒りへと。 「教主…きさま…きさま…!!」 教主の高らかな笑い声に呼応するように、赤い妖力が蜘蛛の巣のように部屋中に広がっていく。 捕らえた涼子という蝶を逃さぬとでも言うように。 『はじめまして、涼子…』 赤い瞳が涼子を射すくめる。恐怖に涼子はへたりと膝を折り、呆然と宙に浮かぶその姿を見つめた。 『そしてサヨウナラ』 40.5b題目 ハジメマシテサヨウナラ です。長!!二つに分けるべきだったか? 一気に話が進みました。朔たちの話と教主の話と分けると丁度いいかも、と思ったけど、これ以上題目を増やしたくなかったので無理やり一つにしてしまいました。 しかし朔っていっつも怪我してばっかりで可哀想だな〜(口だけ)。まあこの後ももっと痛い目にあってもらう予定だけど、とさらりと鬼畜発言。 あれだけ銀にぼろぼろにされた格好で街を走ったりして通報されなかったんだろうか。血まみれ&半裸ですぜ。走れエロスですぞ(最悪)。 |
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