■妖刀一閃■

えーと、萌イラストだけで終わらせるつもりだった涼子と朔の話なのですが、描いてるうちにだんだん話が纏まってきたので
100のお題に絡めて書いていこうと思います。


※これの前振り話が上部リンクの先にありますので、できればそれも読んでいただけると分かりやすいかもです

100のお題  41題目〜50題目


41題目 管

夕食の準備をしながら、ふうと雪はため息をついた。
「…涼子ちゃん、どうしたのかしら…」
どうもここ数日態度のおかしい涼子を心配して、雪はさりげなく様子を伺っていたのだ。
夕方、雪が夕食の準備を始めるのを待っていたかのように、こっそりと寮を抜け出す涼子に雪は気が付いた。
買物にでも出るのかしらと一瞬思ったものの、どうも虫が騒ぐ。手にしたバッグが大きく膨らんでいるのが妙に気になった。ただ買物に出かけるだけならあんな大荷物は必要ない。
声をかけようと玄関に向かいかけた雪は、思い直して朔の部屋へと向かった。朔も涼子の様子のおかしさに気が付いているようだったので、涼子の後を追うよう頼もうと思ったのだ。
訳を話すと朔は二つ返事で諾してくれた。人型に戻り出かけていく朔によろしく頼み、雪は再び台所に戻る。
それにしても、とちらりと時計に目を向ける。7時30分。寮の夕食の時間は大体いつも7時。30分経っても二人とも帰ってこない。
「遅いわね…連絡とってみようかしら」
と、雪が携帯電話を取り出し、朔に連絡を取ろうとしたその時。ぴりりり、と雪の携帯がタイミングよく鳴り響いた。発信者は朔である。
「…もしもし?朔?帰りが遅いから心配して…。え?」
朔の話を聞いている雪の顔色が見る見る青ざめていく。
「ええ、ええ…判ったわ。こちらでも調べてみる。あなたも早く寮に戻ってらっしゃい」
話を終え、呆然とした表情で携帯を切る。
「…涼子ちゃん、どうして…?どうして何も相談してくれなかったの…?」
ぽつりと独り言を呟き、しばし佇んでいた雪だったが、ぐっと手を握り締める。いつまでも呆然としてはいられない。
朔の言っていた『教主』とやらは、恐らくずっと以前自分が遥かな時空に流した妖の片割れだと雪は推測している。自分のせいで今涼子に危機が迫っているのだ。こんな所でぼんやりしている場合ではない。
思い立ってすぐ時雨のもとに向かい、朔から聞いた話を伝える。その途中で朔が寮へと到着し、雪から話を引き継いだ。険しい表情で聞いていた二人だったが、はっとした表情で顔を上げた。
「何だ、この妖力は…?!!」
朔も驚いたように声をあげる。北の方角から膨大な量の妖力が吹き上がるのを感じとったのだ。
時同じくして寮の中にも同質の妖力が溢れ出す。
「な…?!寮の中からも?」
その源を探し、雪たちは部屋の外へと飛び出す。赤い妖気の糸を辿り、溢れ出す源泉へ−涼子の部屋へと飛び込み、三人は立ちすくんだ。妖気の源、それは『血喰らい』。
身悶えし、苦しみ抗うように明滅する『血喰らい』の姿に、絶望と共に雪は確信した。
『教主』は『片割れ』であると。

「ふざけるな!姉さんはあんたなんかに渡さない!!」
憎しみに満ちた視線を向ける風子を楽しげに見下ろしながら、教主は背から生える管をゆるゆると波立たせた。
『渡さないなんていってもねえ、あんたに勝ち目は無いんだよ?この数十年をかけて、多くの妖怪の妖力を吸い取ってきたんだからね。結構大変だったよ、雪や時雨に絶対ばれる訳にはいかなかったからねえ。その封妖石を持っていたのがお捨の子孫だったってのも皮肉な巡り合わせってやつだわね』
ふと遠い目をして教主は呟く。
『…人間との共存を望まない妖たちを集め、それを隠れ蓑に妖をばれない程度に食べる…。多くを食べ過ぎれば雪たちに感づかれる。食べないと力を回復できない…ジレンマだったよ』
その教主の言葉に、涼子はミサトが言っていた都市伝説を思い出した。突然妖が忽然と消えてしまうというあの事件。その犯人はもしかして…。
と、考えを巡らしている涼子へと、教主はふっと視線を向ける。
『お前の体を手に入れ、血喰らいを手にすれば、私は元の姿に戻れる。長かった…本当に、長かった…』
じわりと涼子を取り囲んでいる管が距離を詰める。涼子を背に庇い、悔しげに風子が表情を歪めた。
その時、ばんと音を立てて扉が開かれた。現れた人物に、風子の表情がぱっと明るくなる。
「銀!!いい所に来てくれたわ!」
言うと、呆然と腰を抜かしている涼子を素早く抱き上げ飛び上がり、その隣に着地する。涼子を開いている扉の外へと出し、「姉さんは逃げて」とささやいた。
「え、でも…風子達は?!あの人は風子も殺すつもりよ、一緒に逃げよう!」
心配げに袖を引く涼子に、にっと笑うと風子は答えた。
「大丈夫、銀が来てくれたもの。姉さんが逃げるまでの時間稼ぎをしたら、すぐ私達も逃げるから心配しないで」
『さあて…そいつはどうかねえ』
何か含んだように言いながら、教主は風子達に向けて管を走らせる。迫り来る管を避けるため飛び退ろうとした風子の首に、何者かの腕が絡みつき、締め上げた。
「うぐ…!」
喉を潰すほどの強い締め付けに風子は苦悶の声を上げ、反射的に裏拳を繰り出す。が、その左手はあっさりと止められ捻りあげられた。
「風子!!」
涼子の叫びが響く中、動きを封じられた風子の体に管が深々と突き刺さる。
「…な、んで…?何でなの…?」
ごほりと血を吐きながら、風子は呆然と自身の自由を封じている男を見返した。痛みより、信じられないという衝撃が勝っているのだろう。
風子の言葉にも何の反応も示さず、銀は無表情に正面を見据えている。まるきりマネキンのように。
『この世界に来て本当に良かったよ。私は魂だけの存在になってしまったからねえ。なんの器も無く彷徨っていれば、いずれ魂は消えてしまう…。でも、この世界には、コンピューターというものがあった。知ってるかい、風子。魂と電気は良く似ている。ネットワーク内を仮の居場所とすることが出来たのだよ』
ぎちぎちっと音を立ててマネキンが腕を組み、ゆったりと高みから風子を見下ろす。
『ハードディスクを脳に、このコンピュータ筐体を仮の器に、妖力で二つを繋ぐ。…まあこのままでも不自由はないんだけどね。外界に自ら出なくとも操り人形で用は済むから…その銀みたいにね』
教主の言葉に、風子ははっと銀を見返す。
「銀が…操り人形…?そんな、そんな事できる訳が…」
『出来るさ。妖力とプログラムとを組み合わせ、無線LANを利用してインストールすればいいんだからね。そうすれば私の意のままに動くお人形の完成だよ』
「銀…銀は一体いつから…?」
『いつから、いつからかねえ。そいつは特別製さ。面白かったから、ちょいとした遊びをしてたんだよ。銀には私の正体も、涼子の事も、全ての事を話しておいたのさ。その上で…』
と、残忍にくすくすと笑い、言葉を続けた。
『…その秘密を人に漏らそうとするとインストールが少し進んで、その合図に心臓発作が起きるように細工をしておいたんだよ。そいつがお前に特別な好意を持っていることは判っていたからねえ。秘密を漏らそうとすれば自分の意識が少しずつ私に奪われ、発作で意識を失う。目覚めるたびに徐々に人形に近づく自分をどうする事も出来ず、ただお前の側にいることしか出来ない苦しみにもがく姿はいい暇つぶしになったよ』
「貴様…なんてことを…!」
怒りに身じろぎ、風子は我を忘れて駆け出そうとしたが、貫かれた体の痛みに低く呻いた。
「風子…!」
震える足で立ち上がり、風子の元に駆け寄ろうとする涼子を見返し、風子は苦しげに言葉を継いだ。
「ごめんなさい、姉さん…私、こんな事になるなんて…ほんとに、何も、知らなくて…」
ごほっと血の塊を吐き、呻く風子に首を振って見せる。
「判ってる!風子が悪いんじゃない、風子も騙されていたんだから…!もう、話しては駄目…!」
涼子の瞳に涙がこみ上げる。自分の無力さに歯噛みするが、どうする事もできない。
何て無力なのだろう。風子を助けるなどと言って飛び出してきながら、結局風子に守られている無力な、無力な自分。
「…ごめん、ね…ごめんなさい…」
涙を浮かべ、何度も謝る風子の頬に、ぽつり、ぽつりと何かが降り注ぐ。自由が利かなくなってきた体で風子が見上げると、自身を拘束する銀の瞳から涙が零れ落ちている。
「ぎ、ん…?」
ぼんやりと風子が呟くが、銀の表情は変わらない。相変わらず人形の様に正面を見据えているだけだ。
『まだ少し意識が残っているようだね。完全に自我を消し去るのは難しいもんだ。…まあ、もうこれでお前達の役目も終わったしね』
教主は少し面白く無さそうな声音で呟き、無造作に銀の体にも管を差し込む。う、と小さく息を漏らすだけで、銀は抵抗する素振りも見せない。
「銀!ぎ・・・ごほっ!」
銀を気遣い風子は声を上げるが、銀に自由を奪われ、管に貫かれた状態ではどうすることもできない。
「風子!銀さん!!」
よろよろと二人の元に歩み寄ろうとする涼子を視線で止め、口の形だけで逃げろと風子は伝える。
「でも…でも…」
風子たちを見捨てて逃げる事に躊躇っている間に、管が涼子の背後へとするすると伸びていく。唯一の逃げ道であった扉の前にも管が回り込み待ち構えるように鎌首をもたげた。
『さてと、こいつらを食べたら続きを始めようかねえ…。大丈夫、心配ないさ。私と一体化すれば永遠に生きていられるのだからね。小さな個の肉体の死など気にする事は無いよ』
絶望の響きを乗せて、教主が優しげにも思える口調で囁く。風子も、銀も倒された。血喰らいも無い。何も身を守る術は無い。もう駄目だと涼子は諦め、呆然と立ちすくんだ。





41題目 管 です。疲れた〜…。緊迫したシーンって書くの苦手なんですよ。肩に力が入って肩こりを起こすので。真剣に前のめりでキーボードを力込めて叩くからだろうな〜。
ここから暫くはシリアスが続くから肩こりが持病になりそうです。
さて、私的に大きな伏線だった銀の発作の謎が書けてちょっとスッキリしました。銀は何度も風子にホントの事を言おうとしてるんですが、いつも発作に邪魔されて言えず、意識を取り戻すと自分の中に教主の妖気が増えているのに気が付き、いつ自分の意思が消えうせるのか判らない事に怯えながら、それでも風子を守りたいと側に居続けたナイスガイ。風子の元から去って、どこか遠くで暮らせばインストールも進まない訳で、普通に生きていけたんですが、やはり風子を見捨てるなんて出来なかったようです。




42題目 ごはん

北の空に立ち上る強い妖気に、妖の血を持つ者たちは皆ざわめいていた。うっすらと妖の血を持つものは、何となく寒気がするな程度に、濃い妖の血を持つ者はその力に怯え、鳥肌を立てた。
「なんなんだよ、この妖気は…こんな妖気の持ち主がこれまでどっかに隠れてたって言うのか…?!」
妖の中でもかなり濃い血を持つ朔には、噴水のように噴き出す赤い妖気の姿がはっきりと見えている。蜘蛛の糸の如く北の空を覆う赤い網を、ぞっとする思いで見上げた。
あの網の中に涼子はいるのだと思うと、居てもたってもいられない気持ちになる。自分が器なのだと知り、怯え泣いていた涼子の小さな背中を思い出し、朔はぐっと唇を噛み締めた。
「雪!まだ開かないのか?!!」
時雨が雪へと焦った声をかける。涼子はそこに居るのだと、何故か皆はっきりと確信を持っていた。
「もう少し…時空の調整が出来てないの…」
額に汗を浮かべ、全身から赤い妖気を放ち、雪は小さく呪を紡いでいる。その周囲には時雨以下、強い力を持った隊長クラスの妖たちが時空の開く時を今か今かと待っている。
これまで何度も襲撃をかけて来た、凶暴な妖の親玉が見つかったとあって、仲間達の士気も高まっていた。
「隊長!俺も行きます!」
「ダメだ、危険すぎる!隊長クラスの力を持つ者で無いと許可は出来ない。それに…これは俺と雪が招いた事態だ…。涼子だけでなくお前まで危険に巻き込むわけには…」
苦々しげに呟く時雨に、それでも朔は諦めず食い下がる。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう?!涼子の身に危険が迫っているこの状態で!戦力は一人でも多い方がいいはずです。それに…俺は約束したんです、涼子が危険な目に合ってる時には必ず助けに行ってやるって。絶対俺も行きます!」
真剣な朔の眼差しに、暫く黙っていた時雨だったが、ふっと小さく息を吐き小さく頷いてみせた。
「判った。必ず涼子を助けるぞ」
「隊長!」
時雨の言葉に朔は嬉しそうに頷き返す。
「−捕らえた!」
ずっと黙り込み、妖気の道を探っていた雪が、閉じていた瞳を開く。全力で妖気を解き放ち、時空を探っていた雪の瞳は、赤を通り越して金に近い強い光を放っている。
「開きます!」
力強い声と共に、空間に大きな黒い玉が浮かび上がる。漆黒の球体の中に一点だけ明るい窓が開いている。
「あの光が妖気の源に繋がってます。急いで…!」
大きく腕を開き、その空間を支えるようにしながら雪が叫んだ。その声に頷き、時雨が漆黒の空間へと身を躍らせる。
「いくぞ!!」
時雨の声に呼応するようにあちこちで声が上がり、次々にその球体の中へと妖達が飛び込んでいく。
朔も急いで飛び込み、出口の光へと向かい駆けだした。
『涼子、無事で居ろよ…!!』

「ぎゃあああ!!あぐああああ!!!」
部屋に響く凄まじい悲鳴に、涼子は自分の置かれた状況を忘れて叫びを上げた。
「やめてえええ!!もう止めて!!!!いやああああ!風子ぉ!」
風子に突き刺さった管を引き抜こうと懸命に引っ張る涼子を、横から伸びてきた管が弾き飛ばす。
『大人しくもうちょっと待っておいで。この二人を食べたらお前の中に移動するからね』
「あ・ぁ…りょ、こ…ねえさ…」
管に内部を吸われ、がくがくと末期の痙攣を起こしながら、それでも自分の名を呼び腕を伸ばす風子に、涼子も懸命に腕を伸ばす。が、管に行く手を阻まれ、あと少しの所で腕は届かない。
「「風子ーーー!」」
自分の叫びにもう一つの声が重なる。はっと振り返ると、そこには信じられないという表情で目を見開く俊太とキノが立っていた。
「風子!銀!!」
俊太は叫ぶと、涼子の行く手を遮っている管を軽々と飛び越え二人の下へと駆け寄り、その鋭い爪で管を引きちぎった。
がくりと風子たちが倒れるのを、俊太が抱きとめる。
「キノ!!」
俊太が言うよりも早く、キノが癒しの歌を歌い始める。
『おやまあ、お前達まで食べられにやってくるなんて。けな気なものだねえ』
食事の邪魔をされたにもかかわらず、機嫌よく教主は俊太に声をかける。
「教主様・・・いや、教主!てめえ、風子たちに何しやがる!!」
ぎっと教主を睨みつけ、すぐ風子と銀へと目を向ける。が…。
俊太の顔が絶望に歪められる。薄く見開かれた銀の瞳に、もう光は無かった。腹部は背に付くのではないかと言うほどぺったりとへこみ、もはや命の炎は消え去ったのだと誰が見ても分かる状態だ。
泣き出しそうに唇を噛む俊太の頬に、風子は、ゆるゆると腕を上げ触れると、小さく唇を動かした。
「何だ、風子!何ていった!!?」
俊太は小さな吐息のような風子の声を聞くため、その唇に耳を寄せる。
「涼子…ねがい…」
はっきりとは聞き取れないが、恐らく涼子のことを頼んでいるのだろう。我慢しきれず溢れてきた涙を止める事無くぼろぼろとこぼしながら、俊太は風子の手を握り締め、掠れた声で分かったと答える。
その俊太の言葉にほっとした表情を浮かべると、ゆっくりと風子は息を吐き、瞳を閉じた。
「風子…?」
震える声で呼びかけるが、反応は無い。逝ってしまったのだと、呆然と俊太はその顔を見つめた。もう決してその瞳が開かれる事はないのだと思った途端、張り裂けそうな胸の痛みが俊太を襲った。ああ、と俊太が呻いたその時。朗々と響き続けていたキノの歌声がぱたりと止まった。
はっと気付いた俊太の頬に、肩に、ぱたぱたと生温かい何かが降って来る。何だろうと拭って見た手の平は赤く染まっていた。
と、数瞬遅れて白いものがふわふわと降って来る。
赤く染まった手の平に降り注ぐ、真っ白な羽。呆然と見上げた俊太の目に飛び込んできたのは、無数の管に貫かれ、まるで生贄の様に仰向けに宙に浮かぶキノの姿であった。
「…キ、ノ…。キノーーーー!!」
悲痛に響く俊太の声を、涼子はどこか別の場所にいるように呆然と聞いていた。心が麻痺してしまったように、何もかもが遠く感じる。
瞳を閉じ、もの言わぬ躯となった風子と銀。人形か何かのように無造作に殺されたキノ。目の前で泣き叫ぶ俊太の姿さえもどこか現実のものでないように感じ、ぼんやりと涼子は見つめた。

「涼子!!」

だから、その声が聞こえた時も涼子はすぐに反応する事が出来ず、数瞬の間をおいてゆっくりと振り向いた。
空間に黒い球体が浮かび、そこから仲間達が次々に現れる。その先頭に立ち指示を出す時雨の姿。そして…。
涼子の姿を見つけ、駆け寄ってくる男の姿を認め、ぼんやりとしていた涼子の瞳に光が戻ってくる。その両目に涙が溢れた。
「…朔…!」




42題目 ごはん です。他の100題サイトさんに比べてどんだけ殺伐とした絵やねん…。ちょこちょこ他のサイトさんの絵を見てるんですが、大概ほのぼのしたご飯シーンだってのに…orz
まあ仕方ない。教主にとっちゃあ自分以外の妖は皆ごはんですから。しかし主要登場人物死にまくり。ガン○ム最終話前3話みたいな展開だ。萎え〜…。
そして可哀想な俊太…。目の前で仲間全員逝ってしまって。俊太〜、がんばれーがんばれー!



43題目 ダウンロード

「涼子!大丈夫か!?」
朔は真っ直ぐに涼子の下へと駆け寄ると、彼女に怪我の無い事を確かめ、ほっとしたように息をついた。
「…朔…どうしてここに…」
「前、約束しただろ?いざって時には必ず助けに行ってやるって」
にっと笑って答える朔の姿に、涼子の瞳から安堵の涙が零れ落ちる。
「だって…だって私、朔にひどいこと…」
俯き嗚咽を漏らす涼子の髪を宥める様に撫でると、朔は涼子の手を取り立たせた。
「早くここから離れた方がいい。話は雪様から聞いた、あいつの目的はお前だってな。隊長が気を引いてる間にあの黒い空間から逃げろ」
小さい声で涼子に耳打ちし、視線で雪の作り出した亜空間を指し示す。
「でも…朔は、隊長たちは?」
「あいつが仲間達を消してた張本人なんだろ?倒すしかねえさ。…そういえば隊長たちが何か昔の因縁があるとかって言ってたな…」
朔の言葉を聞きながら、涼子は教主と対峙する時雨を心配げに見やった。

『ち…!ちょいとばかりのんびりしすぎたかね。雪どもに嗅ぎつけられちまったか』
わらわらと現れた妖たちを目にして、教主は憎憎しげに吐き捨てた。その時、教主は何者かの気配を感じ、ふと目を一点へ向ける。そこには殺気に満ちた妖気を全身に漲らせ、日本刀を構えた時雨が立ちふさがっていた。
「久しぶりだな…『片割れ』」
『時雨か…。相変わらず忌々しいツラをしてるね』
表情の無いはずの教主の顔に、苛立たしげな影が走る。
「それはこちらの台詞だ。やはりあの時情に絆されず消滅させておけば良かった。今度こそ消えてもらう。1対多数でかかるのは気が引けるが、手加減はしない」
『1対多数…?さて、それはどうかね?』
「?何だと?」
訝しげに呟く時雨の周りにいた仲間達が、急に苦しみ始める。何事かと振り返り時雨は声をあげた。
「おい!お前達どうした!…まさか教主、きさまの仕業か?!」
きっと睨みつける時雨に向かって教主は含み笑い、ゆっくりと苦しむ妖たちを指差す。
どういう意味だと眉を顰める時雨の背後で、苦しみ続けていた妖たちのうめき声が止まる。と、ぴたりと動きを止めたかと思うと、次の瞬間いきなり時雨に襲い掛かった。
「な…お前達、どういうことだ?!」
突然の仲間の豹変ぶりに狼狽し、慌ててその攻撃を受け流す。が、襲い掛かってくる妖の数はどんどんと増えていく。流しきれず数箇所攻撃を受け、腕や足から鮮血が散る。舌打ちをすると時雨は刀の背の部分で仲間達を強く打った。
普通なら気絶して当然の衝撃にも痛みも感じていないようにすぐ起き上がり、再び攻撃を始める。
「くっ!!」
一瞬仲間達が裏切ったのかと時雨は思ったが、違うとすぐに気が付いた。一様にその目に光が無い。まるで人形のようだ。
『ほほほほほ!!餌としても、兵隊としても使える雑魚な妖を大勢連れてきてくれたようだねえ、感謝するよ時雨!』
「どういうことだ!仲間に何をした!くそ、目を覚ませ!!」
次々襲いくる仲間達の凶刃を避けながら、時雨は呼びかけ続ける。
『無駄だよ、時雨。そいつらはもうインストール済みの私の人形さ。さあ、私の可愛いお人形達、時雨たちを殺ってしまいな』
教主の声に、それまで無事だった者たちまでが次々苦しみ始め、ぴたりと動きを止めると、近くに居る仲間に向かって手当たり次第に襲い掛かり始めた。
『さあて、いつまで体力が持つかねえ。くくくく、生き延びたければその邪眼を使うしかないよ?でも…お前に仲間を殺すことが出来るのかねえ?』
「くそ…!」
邪眼を使おうと瞳に力を込めた時雨だが、かつての仲間達の笑顔が脳裏に浮かび、心を乱した。瞳の光が揺らぎ、そこに一瞬の隙が生まれる。
その隙を逃す事無く、かつて仲間だった者たちが時雨に向かって牙を、爪をつき立てようと殺到した。
肉を切り裂く音と共に、赤いものが宙に飛び散る。
「隊長!!」
思わず涼子と朔は声をあげた・・・が。
「お、お前は…」
時雨の前に立ちふさがり、教主に操られる仲間達を切り裂いたのは俊太であった。
その鋭い爪により仲間達は首を半ば断ち切られ、弱弱しく蠢いている。その残酷な光景に、涼子は悲鳴をあげると朔の肩に顔を伏せた。
「…すまねえ…すまねえ。これは、全部俺のせいだ…」
震える声で呟く俊太に、訝しげに時雨は声をかける。
「どういう事だ…?」
「このプログラムを組んだのは、俺だ…」

「俊太、まだプログラムは完成しないの?」
「こ、こんなプログラムそんな簡単に組めるかってーの!そりゃ言語の大筋はこのメモに書いてあるから大体どうすりゃいいか分かるけど、それを実際に組み上げるのがどんだけ大変か…!」
もう3日もまともに寝ずにプログラムを組んでいる俊太の悲鳴を他人事のように聞き流し、あくびをしながら風子は答える。
「早く完成させてよね。お待ちかねの方がいらっしゃるんだから」
「くっ…!簡単に言いやがって…!」
と、文句を言いつつもその手を休めず、俊太はカタカタをキーボードを叩く。
「にしてもこの基礎案を作ったのって誰なんだ、風子。妖力とプログラムを融合させてソフトを作るなんて思いも付かなかったぜ。ってかこれどういう状況で使うプログラムなんだよ?」
「さあ?私機械音痴だし、さっぱりよ」
余りにも非協力的な風子の答えに、俊太はがっくりと項垂れた。
「さあって…」
「あふ〜…。もう遅いし寝ましょ、銀。じゃ、俊太、あと頼んだわよ」
「ちょ!風子!!」
「じゃあ頑張れ。適当なところで切り上げて寝るんだぞ?」
銀までもが薄情にひらひらと手を振る。ぎゃあぎゃあと文句を垂れる俊太を無視して、二人はそろって寝室へ去ってしまった。
「酷い…あんまりだ…俺って可哀想だ…」
泣き出しそうになりながら、それでもけな気に俊太はパソコンへと向き直る。
「頑張って、俊太!!あたしも頑張る!」
唯一残ったキノが、ぐっと握りこぶしを作るとモニターを覗き込んだ。が、訳が判らない文字の羅列に眉をしかめ、変な顔をして呻いている。
「頑張るって…具体的に何をだよ」
「えっと…。あたしも起きてるよ!んと、後は…応援する!頑張れ〜まっけるな〜、力の限り〜、生きてやれー」
「…そりゃどーも…」
キノの謎の歌に、ますます力が抜けたようにがっくりと肩を落とし、俊太は大きくため息をついた。

「…あの時、深く考える事無くこのプログラムを組んだのは、俺だ…」
『そうさ、お前はまだまだ使えそうだからね、喰わないでおいてやるよ。インストール完了してからもプログラマーとして生かしておいてやろう』
「インストールが済んだら…俺も銀やあいつらみたいな、お前の操り人形になっちまうって事だな」
自嘲気味に笑いながら、俊太が呟く。
「…つまり、妖気の弱いものから順に『片割れ』の操り人形になってしまうって事か?」
時雨の言葉に俊太は小さく頷いた。
「そう…そして、妖気を喰らう事で自分の力を増大させ、徐々に強い妖気の持ち主も操れるようになっていく…そういうプログラムなんだ…」
「じゃあ、時間が経てば経つほどこちらに不利になるって事か?!」
「…そうだ…全部、俺の、責任だ…!風子や、銀や、キノ…皆俺が殺したようなもんだ…!」
苦しげな俊太の叫びが辺りに響く。涼子も、朔も、俊太にかける言葉を見つけられず、ただ立ちすくんでいた。
そうしている間にも、次々と仲間達は教主の『人形』に変えられていく。辺りは血の匂いと悲鳴が飛び交う阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
『ぼやぼやしてると何が起こるか分からないからね。先に『器』を手に入れておこうかね。』
そんな地獄の様相を気にもせず涼子を見つめて、教主はひとりごちた。長くなびく黒髪。青ざめた美しい顔。傷も、シミもない美しい肌。均整の取れた肢体を嘗め回すように見ると満足げに頷き、教主は思案した。
『どうやって魂を追い出そうか…。これからずっと使う体だからねえ、あまり傷を付けたくはないし。管で突き殺すのは穴が開くから汚いし。…首を刎ねてくっつけるのが一番綺麗かねえ』
そう心で呟くと、妖力で大きな刃を作り出し、それを涼子の首めがけて放った。
「!!」
迫る妖気に気が付き涼子は振り返ったが、もう避ける間は無かった。大きく目を見開き金縛りにあったように固まっている涼子を、誰かが思い切り突き飛ばす。
「涼子!!」
突き飛ばされ、倒れこむ涼子の視界が赤一面に染まった。




43題目 ダウンロード です。余りにここの所殺伐とした絵が多かったので、俊太たちの平和だった頃のイラストにしてみました。
幸せは失ってから気がつくって言いますから…。俊太にしてみると振り返って思い出すと泣き出しそうなくらい幸せな記憶だと思います。
4人は家族みたいに暮らしてそうなイメージ。初めは銀と風子の二人で暮らしてた所に、少し遅れて俊太が、その後にキノが入ったと。
銀と風子が怖い母ちゃん(或いは姉ちゃん)と穏やかな父ちゃん(か、兄ちゃん)みたいな感じで、俊太がやんちゃな弟。キノが可愛い妹。
バカっぽくて喧嘩っ早い俊太ですが、実はパソオタ。かなりの腕前を持ってます。そのせいで教主に目を付けられてしまった訳ですが…。



44題目 幻?

鈍い衝撃が、右肩から左腰へと抜けていく。ぐるりと世界が回り、受身を取ることも出来ず朔は倒れこんだ。
視界のすみに涼子が見える。数瞬遅れて、何か赤いものがぱたぱたと降り注いだ。
自分の身に何が起きたのか良く分からないまま、朔は身を起こそうとしたが、どうも上手く体を動かせない。そうこうしている内にゆるゆると涼子が身を起こし、こちらを信じられないという表情で見た。大きく見開いた瞳がぐらぐらと揺らいでいる。
どうやら怪我は無いようだ。安心して声をかけようとしたが、その瞬間全身に激痛が走った。どこが痛いのか判らないほど、とにかく痛い。呻き声をあげようとしたが、喉がひゅうひゅうと鳴るだけだった。
何が起こったのだろうと、自分の状況を見ようと首をめぐらそうとして、そこに朔は信じられないものを見つけた。
涼子の足元に転がるもの。誰かの下半身が落ちている。その靴に見覚えがある。あれはこの間、学校帰りに気に入って買ってきた…。
すうっと急激に意識が冷えていく。ああ、そうかと朔は理解した。涼子のその表情も、自分が上手く起き上がれない訳も。
と、教主の刃の第二波が涼子めがけて襲い掛かる。危ないと右手をついて起き上がろうとするが、そこに自分の腕は無かった。逃げろと叫ぼうとしても、やはり声は出ず、ひゅうと喉が鳴るだけ。
そこに間一髪、時雨が飛び込んでくると、涼子を背に庇い刀で妖気を弾き返した。振り向き朔を見とめるその表情が、瞬間絶望に彩られる。
その時雨の表情で、朔は確信した。

自分は死ぬのだと。

ゆっくりと、ぎこちなく起き上がると、涼子は自分に向かって歩いてくる。すぐ目の前まで歩いてくると、糸の切れた操り人形の様にがくりと膝をついた。
「朔…?」
呟き、涼子は呆然と朔を見つめている。そんな涼子に何か言葉をかけたいと、朔は廻らなくなってきた頭を必死で動かした。
さらさらと流れる黒い髪。髪と同じ、黒目がちの瞳。形良い鼻梁や、唇。まるでその全てを覚えておこうとでも言うように、朔は視線でゆっくりと涼子の顔をなぞっていく。
伝えたい言葉がある。ずっと胸に秘めていた思い。これで眠りに付いたなら、もう、二度と会えない人。
喉元まで出かかった言葉を、朔はぎゅっと飲み込んだ。この気持ちを伝えるわけにはいかない。これから先、生きていくものにとって、逝くものの気持ちなど重荷にしかならない。ここでこの想いを告げれば、一生涼子を苦しみで縛る事になってしまう。
最後なのだからと自分の気持ちを押し付けるのは、ただの自己満足に過ぎないのだから。

もう、痛みは感じない。ただ、息苦しさが増している。喘いでも喘いでも苦しい。失血が酷いのだろう。苦しく、酷く寒い。
その時、朔は自身の変化に気が付いた。意思とは関わり無く、変身が解かれようとしている。
鱗が逆立ち、肌が人のものに変わっていくのを感じる。涼子のぼんやりとしていた瞳が、大きく見開かれた。
「藤原…君…」
とうとうばれちまったと、朔は小さく頷く。最悪の状況で正体を知られちまったなあ、と朔は苦笑いした。
涼子は二人分の死を抱える事になる。朔と、藤原高志の死。自分のせいで二人を死なせた事で、涼子は二重に苦しむ事になるのだろう。そう思いつき、朔はひどく悲しい気持ちになった。
ただ、涼子を助けたかっただけなのに、最後に自分が涼子に与えられるのは哀しみと苦しみだけだなんて。
涼子の見開かれた瞳に浮かんだ涙が、ぽろぽろと朔の頬に零れ落ちる。
その涙を拭ってやりたいと腕を持ち上げようとして、朔は苦笑した。右腕はどこかに吹き飛ばされて無いのだった。
最後なんだから、せめて頬に触れることぐらい許してくれよ神様、と朔は心で悪態を付く。本当に伝えたい言葉をぐっと押し殺し、朔は小さく涼子に囁いた。
今の気持ちに一番近い言葉。

「ごめんな…」

その一言を微かな息と共に吐き出し、朔はゆっくり瞳を閉じた。




44題目 幻? です。信じられないものを見た涼子ちゃんの気持ち、みたいな。
何か…自分的に第一の山場を越えた感じです。もう随分前からこのシーンは決まっていたので、ここに繋げるために前の題を書いて来たと言っても過言ではないかも。
なるべくあっさりと書いたつもり…だけど、どうなんだろう。
好き、という感情を文字で書くのはとても簡単。でもそういうのはどうも薄っぺらい感情表現ぽくて嫌だったので、これまでの100のお題の中での朔の涼子に対しての感情は、全部好きという言葉抜きで描いてきました。今回のお題も同様に。ちょっとしたこだわり?
朔の涼子に対する「好き」が上手く表現できてるといいのですが。


45題目 窓から見る空

その数時間後。涼子は部屋に一人座り込み、窓を見ていた。
見ていた、と言うと語弊があるかもしれない。ぼんやりと開かれた瞳に光は無く、何もその目には映っていないのだから。
そんな涼子の様子を傍らで窺っていた雪だったが、瞬き一つしない涼子に諦めたように小さい溜息をついた。そのまま部屋から立ち去りかけた雪だったが、廊下の先に男がひとり立っている事に気が付いた。男も雪に気が付き近づいてくる。
「…俊太君、だったわね」
「ああ…」
言ったきり、二人は口を閉ざす。先に口を開いたのは俊太だった。
「涼子の様子はどうなんすか?」
「…相変わらずよ。まるで魂の抜けた人形みたい」
いいながら、ふと雪はかつて時雨を喪った時を思い出していた。きっと自分も今の涼子のようだったのだろう。何も感じず、何も見えていない。
涼子の哀しみを思い、雪はその長い睫毛をつと伏せた。
「涼子の様子を見に来てくれたの?」
「ああ…俺は、風子に涼子のことを頼まれたから…。」
風子の名を口に出す時、俊太の表情が泣きそうに歪められた。その表情に、雪も思わず涙ぐむ。
無理も無い。家族のように暮らしていた者たち全員を、俊太は一度に喪っているのだ。今の彼を支えているのは、風子の最後に残した言葉なのだろう。
「様子、見てもいいすか?」
「ええ…でも、多分何の反応もしないと思うわ…」
そう言う雪に、判っているという様に頷き返し、俊太は涼子のいる部屋へと姿を消した。
暫く扉の前で佇んでいた雪だったが、そっと踵を返す。涼子のことは心配だが、ずっとこうしてもいられない。
もう、自分達に残された時間は僅かなのだ。決意を秘めた表情で振り返ると、雪は厳しい目で歩き出した。

「…よう、涼子…」
声をかけるが、何の反応もない。相変わらずぼんやりとしたまま、振り向く事もない涼子の正面まで歩いていくと、俊太はその目の前にしゃがみこむ。
「情けない女だな。朔の仇を取りてえとはおもわねえのか?あいつはお前を守って死んだんだぜ?」
その言葉にも涼子の表情が変わる事はなかった。流石に苛立った口調で俊太は続ける。
「それだけじゃねえ、風子もお前を最後まで心配して死んでいった。今ここにお前が生きていられるのも、あいつらが自分を犠牲にしてお前を守ったからだろ?!」
涼子の目を覗き込むようにしてまくし立てるが、その瞳に光は戻ってこない。相変わらず人形の様にぼんやりとしている。
暫く睨みつけていた俊太だったが、少しずつその顔に諦めの色が濃くなっていった。
「…もういい…教主の所には俺一人で行く。倒せなくても、あいつらの痛みの何分の一でもいいから食らわせてから死んでやる」
最後の方は独り言なのだろう。涼子から視線を外し、呟くと立ち上がる。
「進みが速くなってる…。あの野郎、どんどん妖を喰らって力を増してやがんな。俺ももう1日もつかどうか…」
ぐっと胸の辺りに手を当て、目を閉じ、何かを探るようにしながら俊太はひとりごちた。その瞳をそっと開くと、悔しそうに唇を噛み締める。
「せめて三ヶ月…いや、一ヶ月でもあれば、プログラムの改ざんソフトが作れたってのにな…ちくしょう…」
そう呟いてから、その視線を涼子へと向けた。
「…でも、お前がこんな状態なのは良かったのかもしれねえ。今の教主とやりあったって勝ち目は無いからな。風子も朔も、お前に生きてて欲しいから命を懸けたんだ。多分、今はここが一番安全な場所だろうし…」
そう言っておいて、でも、と俊太は言葉を続ける。
「ここももう時間の問題だろうけどな…」




すこし時間軸的には先ですが、45題目 窓から見る空 です。派手、やめてよ、バスルーム、お別れ、熱!で44題目と45題目の間を埋めていく予定。
…しかし久しぶりの100題だ。漫画の連載を始めるとどうも滞りがちになるなあ。朔死んだまま放置プレイだ。どこまでも扱いの可哀想な男・朔。
うーん、100題はできれば土日に1本位ずつ進められると理想的なんだがな〜。


46題目 派手

そこはまさに地獄の様相を呈していた。床には負傷者が転がり、呻き声を、或いは断末魔の叫びをあげている。
その間を走り回り、癒しの力を持つ妖が必死の治療を施しているが、その隣には力及ばず事切れた者たちが何人も寝かされていた。
重傷を負い、人型を維持できずに元の姿に戻った者や、死を迎えたため変化前の正体に戻った者もいる。その姿は動物であったり、器物であったり様々だ。
生存者も安心していられない。いつ自分は覚醒するのかという恐怖に、皆怯えていた。教主の妖気により操り人形になってしまえば、もうどうすることもできない。心を殺し、覚醒者となった仲間を屠る他に、教主の呪縛から開放してやる術は無いのだから。

「…第32番隊、生存者3名、死亡者2名、覚醒者5名です」
「生存者の名は?」
「田中陽一、中島優、それと私、坂本の3名です」
「…そうか、では次」
「第37番隊は全滅の模様です。誰の姿も確認できていません…」
「…分かった…42番隊は」
「大谷隊長が生きておられましたが…覚醒したため、先程…」
「…そうか…」
坂本と呼ばれた妖の視線を追っていくと、そこには粉々に砕けた鏡が落ちていた。死を迎え、変化前の姿に戻ったのだ。
「…この生存者リストのチェックが入っている者に、9時に私の部屋に来るよう伝えてくれ」
しばしその瞳を開き、大谷の変わり果てた姿を焼き付けるよう見つめていた時雨だったが、すぐに視線を手元のリストへと戻し、素早く数人の名前の前にチェックを入れていく。
「分かりました」
一礼すると、坂本はリストを手に走り去った。ふうと息をつき、時雨は仲間達に気付かれぬよう、そっと壁へと背を預ける。覚醒した仲間達から受けた傷から流れた血が包帯に滲む。
「…派手にやられたもんだ…」
仲間達の姿をぐるりと見渡し、時雨はぽつりと呟いた。怪我の無いものは居ないと言っても良いだろう。皆、体のどこかかに怪我を負っている。
「時雨、傷が痛むの?」
ふいにかけられた声に、時雨は振り向き小さく微笑む。
「いや、もう大分治ったよ。もう1時間もすれば傷も塞がる」
壁から背を離し、大丈夫だとでも言うように両手を開いて言う時雨を真っ直ぐに見据えて、雪は冷静な口調で言葉を紡いだ。
「…これは貴方を特別扱いして言うのでは無いわ。今すぐその怪我を治してもらってきて頂戴。今、実質的にこの隊のリーダーは貴方なのよ。貴方が倒れたら、士気が下がり、二度と隊を立て直す事は出来ないでしょう。貴方にはこの戦いを生き延びる義務と責任がある」
冷ややかにも聞こえる雪の声音に、時雨も真面目な表情で向き直る。
「確かにそうだな…自惚れでなければ、俺が隊にとってどれだけ重要な存在になっているか分かってるつもりだ。だが…」
と、視線を怪我人を治療してまわっている癒やし手の妖たちへと向ける。
「妖気も無限じゃない。あいつらが治療できる人数にも限りがある。俺を完治させる妖気があれば、死にかけてる奴らが何人も助かるだろう」
「でも…!この戦いに負ければ、どの道全員死んでしまうのよ?!だったら残酷なようだけど…」
言いかける雪を時雨は視線で止める。
「…後3時間したら再び教主に戦いを挑むつもりだ。遅くなればなっただけこちらの戦力は削られていくだけだしな。その3時間があれば自力で完治出来る程度に治療は受けてきてある。俺だって死にたかないからな、その位の計算はしているさ」
おどける様に肩をすくめて見せる時雨に、雪は心配げにそれならいいけど、と小さく呟いた。
「…所で、涼子は…」
「相変わらず…。無理もないわ。風子達を目の前で失い、朔も…」
言いかけた雪の瞳が潤む。雪の視線の先に、白い布をかけられた亡骸が一つ、横たわっている。その傍らにはじっと瞳を見開き、瞬き一つしない少女が膝を抱えて座っていた。くるくるとした赤い癖毛の少女だ。
「ミサト、朔の側を離れないわね…」
「そうだな…」
二人は暫く無言でミサトを見つめる。ぽつりと時雨が呟いた。
「涼子は…戦えないだろうな…」
「無理ね、あの様子では。足手纏いになるのが見えてる」
きっぱりと雪は断じ、再び口を噤んだ。
「…血喰らいの力があれば、かなりこちらに有利になるのだがな」
「今の涼子ちゃんが教主の元へ行って御覧なさい。すぐに体を奪われるのがオチよ。…まあ、教主が涼子ちゃんの中に移動した所の隙を突いて、貴方の邪眼で石にするなり、私の力で異界流しするのが一番手っ取り早いのだけど、あなたにそんな事が出来て?」
「……」
黙り込む時雨に、雪は囁く。
「出来ないわ、貴方には。それに、私にもね…。私達は甘すぎる。何度も何度も、この甘さで痛い目を見てきた。それでも、変われないし、変わる気もない。私達の戦いは、この甘さを守る為のものだもの。仲間達や、涼子ちゃんや、大切な者たちを助けたいという、甘さを守るためのね…」
そう言いながら、雪は予感を持っていた。多分この戦いには勝てない。時雨も、仲間達も、自分自身も、皆死ぬだろう。そうなれば、次は世界中の人々だ。人間界は既にパニックになっている。覚醒者たちが人間達を次々襲っているのだ。
先程からニュースはその話題一色になっている。今は局地的な異変に過ぎない。だが、自分達が倒れた後は、この混乱は日本のみならず、世界へと広がっていく。
それを止める方法が、只一つだけ自分にはある。だが、その方法は…。



46題目 派手 です。派手に負けました、というニュアンス。あ〜…もう主人公時雨と雪じゃね?朔は死んじゃうしさぁ、涼子は動いてくれないし。つか雪と時雨は適度に熱血漢で、適度に冷静だから動かしやすいんだよなあ。いつでもツーマンセルだから会話で話を進めやすいし。
うむう、どうも私は主人公より脇役に好みのキャラを配置しやすいからこういう事になるんだな。でもこの手のキャラは脇にいたほうが光そうだし。むむ〜…。



47題目 やめてよ

「じゃあ、雪。俺は作戦会議があるから…もう行くよ」
時雨の言葉に雪ははっと我に返る。
「ええ…」
短く言葉を交わし、雪は立ち去る時雨を見送った。ふっとため息をつき、雪は再び視線をミサトへと戻す。
『…ミサト…』
瞳を大きく見開いたまま、じっと朔を見つめるミサトの姿に重ねて、雪は数時間前の事を思い出していた。

北の空に立ち上る妖気の元へとゲートを開き、仲間達を送り終わってから、最後に雪もゲートをくぐる。闇の中、一点の光を放つ扉を潜り抜け目にしたもの…それは変わり果てた朔の姿と、同士討ちを始めている仲間達の姿だった。
信じられない光景に、しばし頭が真っ白になる。が、すぐに気を取り直し、何が起こっているのか調べるため、雪は妖気の流れを読みに入った。操られている仲間達の妖気に、教主の妖気と同質のものを感じ取った雪は、すぐにこの事変を起こしているのは教主であると気が付いた。声に全力で霊力を込めると、一度撤退するよう全員に呼びかける。響き渡る強い霊波動に、一瞬全員の動きが止まった。
仲間達が突然襲ってくるという混乱で、皆統制が取れていない。これでは間違いなく全滅する。一度戦線を離れ、冷静になる時間が必要だと判断した雪は、すぐに寮へのゲートを開くと、操られたものが紛れ込まないようゲートの前に立ちふさがり、無事な者たちを逃がしにかかった。
ふと気が付くと、同士討ちをして命を落とした者の体に、覚醒者たちが群がり貪り食い始めている。ぞっとする思いで雪はその姿を見つめていると、呆然としたままの涼子を連れ、時雨がゲートへとやってきた。雪に涼子を頼み、朔の体を回収するため再び地獄絵図の中へと戻っていく。
切断された朔の体をそっと抱え上げ、吹き飛ばされた右腕を探す。少し離れたところに見つけたが、もう腕の辺りまで覚醒者たちが群がってきていた。
朔の腕はもう多数の覚醒者の中に沈み、全く見えない。もう間に合わないと判断した時雨は悔しげに顔を歪めると踵を返した。
ぼんやりとしていた涼子が、朔の腕に向かってその腕をゆるゆると伸ばし、うわ言の様に繰り返し呟く。

「やめてよ…朔の…朔の腕…やめてよ…」


「いやああああ!お兄ちゃん!お兄ちゃん!!」
悲痛な少女の悲鳴が寮に響く。遺体の一つに取りすがって泣いている赤毛の少女と、その傍らにはもう一人、ぼんやりと黒髪の少女が座っていた。
赤毛の少女が泣き伏せていた面を上げると、黒髪の少女を憎憎しげに睨みつける。
「もとはといえば、全部涼子が悪いんじゃない…!勝手に一人で敵に付いていって!罠にはまって!お兄ちゃんはあんたを助けようとして死んだんでしょ?!何でよ!何でお兄ちゃんが死んであんたが生きてるのよ?!返してよ!お兄ちゃんを返してよ!!」
言いながら、ミサトは涼子に殴りかかる。涼子は抵抗もせず、殴られるままだ。
見かねた時雨と白雪が止めに入る。
「よしなさい、ミサト!涼子も騙されていたんだ」
「やだああ!お兄ちゃん、お兄ちゃん!!」
身を捩り、時雨の拘束から逃れようと暴れながら、ミサトは射殺さんばかりの視線で涼子を睨みつける。もしミサトに邪眼の力があれば、涼子はとっくに殺されているだろう。
ミサトを押さえながら、時雨は雪に目配せする。小さく頷くと、雪は涼子を支えて立たせ、離れた静かな小部屋へと連れて行った。涼子は白雪に促されるままに立ち上がると、ふらふらとした足取りで立ち去る。
わんわんと泣きじゃくるミサトの背を撫で宥めている時雨の元へ、俊太が苦い顔でやってきたのはその時だった。朔の名を呼び泣いているミサトを悲しい目で一瞬見つめるが、すぐ時雨へと視線を向け、小さく顎をひいて見せる。
何か大声では話せない話があるのだと気付いた時雨は、ミサトをそっと座らせると俊太の元へと歩み寄る。
「…何か、おおっぴらには言えない話か?」
「ああ」
視線を朔と、その傍らにしゃがみこむミサトへと向けながら、ぽつりと俊太は呟いた。
「死体は、早く燃やした方がいい…」
「何?」
「教主は、妖と同化する事で妖力を増す。それは死体であっても有効だ。覚醒した奴らが妖の死体を喰っているのを見ただろ?」
「…ああ」
「そうして他の妖の妖気を取り込んだ覚醒者を喰らう事で、教主は自分の力を増すことが出来る。だから、奴に喰えないようにするには灰にするのが一番手っ取り早いんだ」
「そうか…」
寮のどこかで悲鳴が上がる。また誰かが覚醒したのだ。
時間が過ぎるごとに、絶望の足音が近づいてくる。もう追いつかれそうなほどすぐ背後に。絶望の腕が首筋に絡みついてくる錯覚に、時雨は強く唇を噛み締めた。




47題目 やめてよ です。あ〜…もう何かやだ…。私、基本的にギャグが好きなんだよ…欝な話を書いといて何だが。基本幸せでアホな話が好きなのに、だあ〜…自分で書いていながら、ここの所の展開が辛いの何の…。
でも仕方ない、思いついちゃったんだから。すまん朔!
でもって補足〜。俊太はあかの他人に対してはどこまでも残酷になれますが、仲間や気に入った人なんかにはめっぽう優しいです。
朔は俊太に対してそう特別な感情は持ってませんが、俊太にとって朔は(一方的な)喧嘩友達です。その友達の死なんで、時雨や雪の思っている以上に俊太は朔の死にダメージを受けてます。そんな朔の死を悼んでいるミサトに対しても、申し訳ない気持ちでいっぱいだったり。



48題目 バスルーム

俊太からもたらされた情報により、再び打って出る前に弔いの儀式が行われる事になった。弔いと言っても簡単なものだ。有り合せの木材で櫓を組み、そこに骸を無造作に横たえて火をかけるだけ。
急遽決定した別れの儀式にあちこちから不満の声が上がる。それも当然だ。唐突に訪れた親しい者の死に、皆まだ心の整理が出来ていないのだから。
とは言えそのままにしておけば教主に食われてしまうと言われれば、皆しぶしぶながらも頷くしか無い。弔いの準備が進む広場のあちこちですすり泣く声が響く。
「この儀式が終わったら…もう一度戦いを挑んでくる…」
「ええ」
そんな悲しい光景を見守りながら、時雨と雪は二人並んで話していた。
「涼子に知らせないわけにはいかないな」
「そうね…。私が言ってくるわ」
「大丈夫か?」
「ええ。涼子ちゃん、随分朔の血を浴びていたから…お風呂に入れながら話してくる…」
そう話している二人の前を、朔がゆっくりと運ばれていく。もはや涙も涸れ果てたのか、泣きやみぼんやりとした表情のミサトがその傍らに付き添っていた。

「涼子ちゃん、朔たちの弔いを行う事になったの…」
風呂場で涼子の髪を洗ってやりながら、恐る恐る雪は切り出した。
「そう、ですか…」
ぼんやりとしたままではあるが、初めて涼子が返事を返した事に雪は少しほっとしながら、言葉を続ける。
「この非常時だから、きちんと弔う事は出来ないから、皆合同でなんだけど、もう後30分位したら始める予定よ。…涼子ちゃん、出られそう?」
髪にこびり付いたまま乾燥してしまった血の塊を洗い流しながら、雪は涼子の様子を窺った。
「はい…大丈夫です…。私も、いきます…」
「そう…」
心配げに言葉を返すと、雪は再び黙り込んだ。



48題目 バスルーム。珍しく短いです。このくらいが書きやすいし読みやすくて良さそうですが、どうにもズルズル長くなってしまう…。もう少し纏める力があればなあ。
ともあれもうすぐ50題に手が届きそう。折り返しまであと2題!
初めはもう少しきわどいイラストだったのですが(涼子の胸辺り…髪の毛でちょっと隠してあるよ〜みたいな)一応健全サイトなんでエロは控えめに。その代わり流血系グロ描写は高めなんで(ダメじゃん!)



49題目 お別れ

高く積み上げられた櫓に火が放たれた。一つだけではない、いくつもの櫓の山が同時に燃え上がり、辺りは炎と煙に包まれる。
赤々と燃え盛る炎に照らされ、見送る者たちの顔も赤く染まった。皆じっと微動だにせずその様相を見つめる。大切な者たちの最後の姿をそのまぶたに焼き付けておくかのように。
初めは炎より煙の勢いの方が強いくらいだったが、時間と共に炎の勢いが激しくなっていった。まるで炎の舌に絡め取られるかのように、骸たちが炎に飲み込まれていく。
朔の影が炎の中に消えていくのを、涼子とミサトは並んで見つめていた。先まで激しく涼子を責め立てていたミサトだったが、今は涼子と互いを支えあうように手をしっかりと繋ぎ、共に朔を見送っている。少し離れた所では、俊太も炎を見つめていた。
そんな涼子たちの姿から、燃え上がる弔いの炎へと視線を移した雪は、ふとデジャヴに襲われた。いつかどこかで、こんな光景を見たことがある…と考えを巡らす。と、ふと気が付いた。
そうだ、あの時に似ているのだ。遥かな過去、この地に流れつく前、時雨を喪ったあの時。その運命を変える為過去へと遡り、炎の中で時雨を見つけたあの光景に。
炎に包まれ、赤く染まった枯れ野原。煙にむせ込みながら時雨の姿を捜し求めた。そっと隣に目を転じれば、そこにはあの時と同様に時雨が佇んでいる。
あの時は時雨の正体が人間達に知れてしまったため、生きて戻っても仲間達に迷惑をかけることが分かっていた。もはや戻る場所が無い二人は、最後の選択肢として違う世界へと逃げ出したのだった。
あの時は、自分と時雨、二人の命の事だけを考えればよかった。だが、今度は違う。今の自分達には守るべき者が大勢いる。自分たちの命だけ助かればいいだなんて、とても思えない。
同じように過去へと戻り未来を変えるにしても、それはもう難しい。かつてピンチに陥ると、雪は軽い気持ちで過去に干渉し、未来を変えてきた。そのつけが来たのだろう、過去と未来は複雑に枝分かれしすぎて、どの過去と未来とが繋がっているのか分からなくなってきているのだ。
心に強く描いた過去ほど、その人物の近くに寄ってくる。雪がこちら側の世界からナビゲートして、もう一人の人物が強く願い、望む過去を引き寄せれば、狙った過去へと戻れる可能性はかなり高くなるかもしれない。だが、万が一時空の狭間に落ち込んだりしたなら、永遠にその人物はもとの世界には戻れないだろう。
そんな危険を他人に冒させるわけにはいかない。だが…このままでは全滅は必至だ。
答えの出ない堂々巡りの思考に、雪は唇を噛み締めた。



49題目 お別れ です。31題目と似た感じの構図にしてみました。
またおまえらか。
って感じですね。すんませんすんませんこいつら使いやすくてもうホントに。反対に涼子と朔って使いにくいのなんの。勝手に死ぬし、落ち込むし、動けよコラ!!
えー・・・話的には伏線の嵐って感じでしょうかね。個人的に伏線は全部回収したいし、自分の力量以上の風呂敷は広げたくないので、ちゃんと辻褄合わせるつもりだけど…どうかな?うっかり回収忘れとか起こらない様にしたいにゃあ。
そういえば今回のイラストは下書きなし、主線なしで書きました。塗りだけで。べたーと黒く影部分を塗りつぶしてから色を乗せていく技法です。油絵みたいな感じ。結構楽しいですね〜、こういう描きかたも。



50題目 熱!

朔の影が少しずつ炎の中に消えていく様子を、ミサトは涼子と共に黙って見つめていた。ともすれば緩みそうになる涙腺を抑えるかのように、ミサトは涼子と繋いだ左手に力を込める。
さっきは涼子を責め立て、朔の代わりに死ねばよかったのだなどとひどい事を言ってしまった。本当はそんな事思ってなかったのに。もし朔だけでなく涼子まで喪っていたら…。
結局のところ、ただ八つ当たりをする相手が欲しかったのだ、涼子に甘えていたのだけだったのだと、ミサトは自己嫌悪と共に唇を噛んだ。

少し前、弔いの準備を進めている広場で涼子に声をかけられ、ミサトは再び憎しみのまま彼女に罵詈雑言を浴びせかけた。雪も、時雨も涼子に止めに入らないよう言われていたらしい。心配げにしながらも遠巻きに見ているだけで、止めに入ろうとはしなかった。
思いつく限り全ての怒りの言葉を吐き出し罵るミサトの瞳から、もう涸れたと思っていた涙が零れ出す。こらえきれず、俯きすすり泣きはじめたミサトのその背に、それまでじっと黙って聞いていた涼子の両手が回された。
慌てて怒りの言葉を吐き、逃れようとするミサトを更に強く抱きしめ、涼子はただ詫び続けた。ごめんなさい、ごめんなさい、と。
小さく響く涼子の嗚咽に、怒りに満ちていたミサトの表情がゆっくりと変わっていった。小さく震える涼子の背に、ゆっくりとミサトの両手が回される。二人の少女は炎を背に一つの影となり、互いを支え合うように抱きしめあった。

炎の勢いはどんどん強くなっている。かなり離れていると言うのに、照らされる顔や腕がじりじりと痛い。辺りは炎で真っ赤に染まっている。
だから、始めは涼子と繋いでいる手の平が熱いのも、辺りが赤々と染まっているのも、弔いの炎のせいだと思っていた。
が、ミサトはふと気が付いた。炎の熱が手の平に伝わるわけが無い。じゃあこの熱の源は…?
いぶかしみ視線を涼子と繋ぐ手へと向けたその瞬間、繋いだ手の平から真っ赤な光が迸り出た。焼けるような強い妖気の熱に、ミサトは小さく悲鳴を上げてその手を離す。
目を焼くような強い光が治まると、さっきまで繋いでいた涼子の右手に血喰らいが握られているのにミサトは気が付いた。
『な…なんで血喰らいが…?涼子は手ぶらで来た筈なのに…』
忽然と姿を現した血喰らいに、ミサトは驚き涼子を見返した。少し離れた場所で様子を見ていた時雨と白雪もミサト同様驚きを隠せずにいる。
涼子の瞳も血喰らい同様に、赤い光を放っている。まるで血喰らいを使い、トランスしている時の様に。
ただ、いつもと様子が違う。血喰らいを使うと、涼子はその力に取り込まれて、妖を屠る為に操られる無感情な人形のようになってしまう。
だが今、血喰らいを手にする涼子の瞳は、強い意思の光を宿していた。刀身をしっかり握りなおすと、じっとその手の中に現れたものを見つめる。
そのまましばらく佇んでいた涼子だったが、ゆっくりと顔を上げ、振り向くと時雨と雪をその赤く燃える目で真っ直ぐに見据える。
迷い無い足取りで時雨たちの下へと歩み寄った涼子は、静かに、しかし強い意志を込めて言葉を紡いだ。

「隊長、私も共に戦います」



50題目 熱! です。祝!涼子復活!!です。はー、よかったよかった。いつまで抜け殻でいるのかとどきどきでした。自分でもどうキャラが転がってくか未知数だったりするんで。
しかしすごい久しぶりの100題更新だ。漫画が完了したんでもうちょっと頻繁に更新できたらいいなと希望。で、これで50題。半分まで来ました。残り50題。…この話、どう完結するんだろう…もう初期のプロットからは大分ずれてきたからなあ。最後の方はどこまでずれるか未知数だったり。ドキドキ。







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