第二章 視覚障害者の就労状況


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 中途視覚障害者の就労状況を取り上げる前に、障害者全般の就労状況と視覚障害者全般の就労状況を見ていくことで、障害者雇用の問題、視覚障害者の雇用問題を大まかに捉えることにする。

第一節 障害者全般における就業の現状
 厚生労働省は、「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づき、障害者の雇用率(表2-1-1)を定め、これが達成できるように行政指導を行っている。
また、厚生労働省の社会・援護局障害保健福祉部発表、平成13年6月1日調査の身体障害児・者実態調査結果によると、障害の種類別にみた就業・不就業の状況(表2-1-2)は、「就業者」は738,000人、「不就業者」は2,429,000人であり、割合では22.7%しか就業できていない現状であり、数字的に見ても低いことがいえる。視覚障害においては、「就業者」は72,000人、「不就業者」は221,000人であり、割合では23.9%しか就職できていない現状である。障害者全体の平均から見ると、視覚障害者は若干高い数字を示しているが、それでも低い数字を示している。
 さらに、就業状況別身体障害者数及び就業率の年次推移(表2-1-3)をみると、今回の調査では23.3%となっており、平成8年の前回調査から減少している。前回からの伸び率をみても、前回調査に対して、「一般の就業率」(96.6%)、「身体障害者の就業率」(77.4%)共に減少している。特に身体障害者の就業率は、平成3年の調査から大きく減少している傾向が伺える。

表2-1-1 法定雇用率
平成10年7月以降
民間企業 一般の民間企業 1.8%
特殊法人 2.1%
国・公共団体 2.1%
一定の教育委員会 2.0%
(注) 一定の教育機関とは、都道府県に置かれる教育委員会、
その他厚生労働大臣の指定する教育委員会である。



表2-1-2 障害の種類別にみた就業・不就業の状況
(単位:千人)
障害の種類 総数 就業者 不就業者 回答なし
総数 3,245 738 2,429 78
(100) (22.7) (74.9) (2.4)
視覚障害 301 72 221 8
(100) (23.9) (73.4) (2.7)
聴覚・言語障害 346 88 249 9
(100) (25.4) (72.0) (2.6)
肢体不自由 1,749 376 1,331 42
(100) (21.5) (76.1) (2.4)
内部障害 849 203 627 19
(100) (23.9) (73.9) (2.2)
(  )内は構成比(%)
平成13年度身体障害児・者実態調査



表2-1-3 就業状況別身体障害者数及び就業率の年次推移
調査年月 総数 就業者 不就業者 回答なし 就業率 一般
(総務省労働力調査)
(15歳以上就業率)
千人 千人 千人 千人 % %
昭和 35年 7月 829 387 442 - 46.7 70.6
昭和 40年 8月 1,048 412 636 - 39.3 66.8
昭和 45年10月 1,314 579 735 - 44.1 68.8
昭和 55年 2月 1,977 638 1,320 19 32.6 64.4
昭和 62年 2月 2,413 701 1,698 13 29.2 59
平成  3年11月 2,722 894 1,731 97 34.1 62
平成  8年11月 2,933 845 1,958 131 30.1 61.5
平成 13年 6月 3,245 738 2,429 78 23.3 59.4
前回比 110.6 87.3 124.1 59.5 77.4 96.6
(13年/8年)
(注)就業率の算定に当たっては、就業者/就業者+不就業者(「回答なし」を除く。)
  によった。
平成13年度身体障害児・者実態調査



第二節 視覚障害者の就業の現状
 厚生労働省の社会・援護局障害保健福祉部発表、平成13年6月1日調査の身体障害児・者実態調査結果から見ると次のようである。就業状況別視覚障害者数及び就業率の年次推移(表2-2-1)によると、視覚障害者の総数、就業者、就業率は平成3年以降、減少傾向にある。
 就業者を就業形態別(表2-2-2)にみると次のようである。全体では「常用雇用労働者」が26.8%と最も高く、次いで「自営業主」が26.2%である。しかし、視覚障害者の就業形態を見ると、「常用雇用労働者」は15.3%と障害者全体では一番低い数字である。しかし、視覚障害の特徴として「自営業主」は48.6%と障害者全体で最も高く、半数近くを占める非常に高い数字となっている。視覚障害者の半数は雇用されているよりも、自営業として就業しているケースを占めていることになる。
 また、障害の種類別にみた職種別従事の状況について(表2-2-3)みると、障害者全体では「農業・林業・漁業」が14.0%と最も高く、次いで「専門的・技術的職業」が13.8%とその割合が高い。しかし、視覚障害者で「農業・林業・漁業」に従事しているものは12.5%と障害者全体の中で最も低く、「専門的・技術的職業」に従事しているものも6.9%と障害者全体の中で最も低い数字である。
 職種を見ると、「あんま・マッサージ・はり・きゅう」は障害者全体では3.3%しかないがほとんどが視覚障害者(25,000人中24,000人)である。視覚障害者全体の33.3%(72,000人中24,000人)が「あんま・マッサージ・はり・きゅう」に従事している。
視覚障害者は雇用されての就業よりも、「あんま・マッサージ・はり・きゅう」での自営業で就労しているものが多いということである。
 平成5年度身体障害者等雇用実態調査から視覚障害者となった時期(表2-2-4)を見ると、採用後に視覚障害者になったもの(中途視覚障害者)は29.4%を占めている。しかし、29歳以下ではほぼ100%のものが採用前に視覚障害者であったのに対して、30〜49歳、50歳以上では採用後の比率は32.6%、31.1%である。これは視覚障害者には、中途で視覚障害者になる人が多く、中でも採用後10年以上経過してから視覚障害者となるものが多いということである。


表2-2-1 就業状況別視覚障害者数及び就業率の年次推移
調査年月 総数 就業者 不就業者 回答なし 就業率 一般
(総務省労働力調査)
(15歳以上就業率)
千人 千人 千人 千人 % %
平成  3年11月 353 96 341 12 28.1 62.0
平成  8年11月 305 80 212 13 27.3 61.5
平成 13年 6月 301 72 221 8 24.5 59.4
前回比 98.6 90.0 104.2 61.5 89.7 96.6
(13年/8年)
(注)就業率の算定に当たっては、就業者/就業者+不就業者(「回答なし」を除く。)
  によった。
平成13年6月1日調査の身体障害児・者実態調査結果から筆者が作成



表2-2-2 障害の種類別に見た就業者の就業形態の状況
(単位:千人)
就業形態 総数 障害種類別
視覚障害 聴覚・ 肢体 内部障害
言語障害 不自由
総数 738 72 88 376 203
(100) (100) (100) (100) (100)
自営業主 193 35 16 81 62
(26.2) (48.6) (18.2) (21.5) (30.5)
家族従事者 68 5 10 35 17
(9.2) (6.9) (11.4) (9.3) (8.4)
会社、団体の役員 68 4 7 35 21
(9.2) (5.6) (8) (9.3) (10.3)
常用雇用労働者 198 11 26 111 50
(26.8) (15.3) (29.5) (29.5) (24.6)
臨時雇・日雇 63 4 7 37 15
(8.5) (5.6) (8) (9.8) (7.4)
内職 18 2 1 11 4
(2.4) (2.8) (1.1) (2.9) (2)
授産施設等で就労 9 2 1 7 -
(1.2) (2.8) (1.1) (1.9) -
地域の作業所に通っている 11 1 3 4 3
(1.5) (1.4) (3.4) (1.1) (1.5)
その他 49 2 7 26 14
(6.6) (2.8) (8) (6.9) (6.9)
回答なし 60 4 8 31 16
(8.1) (5.6) (9.1) (8.2) (7.9)
(  )内は構成比(%)
平成13年度身体障害児・者実態調査




表2-2-3 障害の種類別にみた職種別従事の状況
(単位:千人)
職業 総数 障害種類別
視覚障害 聴覚・ 肢体 内部障害
言語障害 不自由
総数 738 72 88 376 203
(100) (100) (100) (100) (100)
農業・林業・漁業 103 9 14 55 27
(14) (12.5) (15.9) (14.6) (13.3)
事務 80 3 5 48 25
(10.8) (4.2) (5.7) (12.8) (12.3)
管理的職業 60 1 2 29 28
(8.1) (1.4) (2.3) (7.7) (13.8)
販売 50 4 6 23 19
(6.8) (5.6) (6.8) (6.1) (9.4)
あんま・マッサージ・ 25 24 - 1 -
はり・きゅう (3.3) (33.3) - (0.3) -
専門的、技術的職業 102 5 9 53 35
(13.8) (6.9) (10.2) (14.1) (17.2)
サービス職業 68 5 6 36 20
(9.2) (6.9) (6.8) (9.6) (9.9)
生産工程・労務 80 7 16 47 8
(10.8) (9.7) (18.2) (12.5) (3.9)
その他 91 5 16 44 25
(12.3) (6.9) (18.2) (11.7) (12.3)
回答なし 80 8 13 41 16
(10.8) (11.1) (14.8) (10.9) (7.9)
(  )内は構成比(%)
平成13年度身体障害児・者実態調査


表2-2-4 視覚障害者となった時期
29歳以下 30歳〜49歳 50歳以上 全体
採用前に視覚障害者であったもの 99.0% 67.4% 68.7% 70.6%
採用後に視覚障害者になったもの 1.0% 32.6% 31.3% 29.4%
資料出所 労働省「平成5年度身体障害者等雇用実態調査」



第三節 視覚障害者の主な職種
 視覚障害者の職種は、伝統的に理療業に限られていた。第二節でも視覚障害者の就業は雇用されての就業よりも、「あんま・マッサージ・はり・きゅう」での自営業で就労しているものが多いことを述べた。
しかし、近年社会的状況の変化に伴い、視覚障害者は様々な職種に進出してきている。理療業以外の代表的な職種として、日本障害者雇用促進協会は以下のようなものを指定している2)。また、中途視覚障害者にとって実際に可能な職業は何かを同時に見ていくことにする。

1、ヘルスキーパー
 "現在、全国で約250人の視覚障害者がヘルスキーパーとして雇用され、民間企業や官公庁、福祉施設などで従業員の健康維持増進や作業能率の向上に寄与している。治療内容は、あんまのみが一番多く、一部、鍼灸を併用して、従業員の肩こりや腰痛、VDT(Video Display Terminal)による眼精疲労など、さまざまな症状に対して治療を行っている。1回の治療時間は30〜40分程度であり、従業員は事業所内に設置された治療室で治療を受ける。
 理療教育は、全国の盲学校専攻科・理寮科・保健理寮科、筑波技術短期大学(茨城県つくば市)、または各地の視覚障害者更生施設で行われている。3)"

2、電話交換手
 "視覚障害者の電話交換手は、日本で昭和43年に初めて誕生した。現在でも、多くの視覚障害者が民間企業や官公庁で電話交換手として働いている。具体的な就職先として、金融機関が一番多く、ほかに地方自治体、百貨店、メーカー、建設会社、病院等がある。たいていの場合、すでに事業所に設置されている一般交換台をそのまま操作しているが、中には晴盲両用交換台や音声で指示が出るように特別に改造した交換台を操作している場合もある。
 一般交換台を使用する場合、局線からの着信や内線からの呼び出しを音で区別できるように設定したり、必要なキーやボタンを判断するために点字テープを貼るといった工夫をしている。また、必要に応じて、ランプの点火を知るために受光部に光があたると音が鳴る「ライト・プルーブ」という補助具を使う場合もあり、視覚障害者本人が使用する内線番号簿や関係先電話番号簿は、各自が点字や拡大文字で作成する例が多い。
 視覚障害者に対する電話交換の養成訓練は、(社福)日本ライトハウス視覚障害者リハビリテーションセンター(大阪市)、神奈川障害者職業能力開発校(相模原師)、東京都心身障害者職能開発センター(新宿区)、国立職業リハビリテーションセンター(埼玉県所沢市)の4施設で行われている。これまで600人以上の視覚障害者が訓練を修了し電話交換手として就職している。4)"

3、情報処理技術者
 "コンピューター・プログラマーをはじめとする情報処理技術者の要請訓練は、昭和46年より始まり、現在まで多くの視覚障害者がプログラマーやシステム・エンジニアとして、ソフトウェア会社や企業のコンピュータ部門に就職した。使用しているコンピュータは、以前は大型汎用機やオフィス・コンピュータが多かったが、最近ではパーソナルコンピュータ(パソコン)も増えてきた。
 視覚障害者の情報処理技術者は、大型汎用機の端末やパソコンの画面を確認するために、さまざまな就労支援機器を使用している。全盲者はパソコンを操作するとき、画面上の文字を確認するために音声出力機能や点字ピン表示機能を使用している。大型汎用機やオフィス・コンピュータの端末を使用する場合は音声や点字による表示ができないので、オプタコンを使って画面を触読するか、別に本人のプログラミング作業用として、音声出力機能点字ピン表示機能のついたパソコンを用意することが多い。また、全盲者の場合、仕様書などは口頭での説明で理解できるが、マニュアルなどの複雑な資料については、点字図書館などの対面朗読サービスを利用したり、職場の同僚に音読してもらったり、資料の朗読や点訳にあたる職場介助者を配置してもらっているケースもある。また、事業所によっては、電子メールで仕様書や資料が手に入ったり、マニュアルをテキスト・ファイル化する事により音声出力機能を通して全盲者でも単独で読めるようになっているケースもある。
 弱視者の多くは、拡大読書機やルーペなどを使って、仕様書や資料などを読む。また、一部の機種に接続できるディスプレイ文字拡大装置を使用したり、画面をソフトウェア的に拡大表示して業務を行っている場合もある。
 視覚障害者を対象とした情報処理技術者の職業訓練は、(社福)日本ライトハウス視覚障害リハビリテーションセンターと国立職業リハビリテーションセンターの2施設で行われている。(社福)日本ライトハウス視覚障害リハビリテーションセンターでは、2年の訓練期間中に、大型汎用機やパソコンの演習が行われている。国立職業リハビリテーションセンターでは、原則として1年コースとして、クライアントサーバーシステムを利用した訓練等を行っている。
 近年、学校教育の中でも情報処理教育が行われるようになり、日本で初めて障害者のための高等教育機関として設立された筑波技術短期大学にも、視覚障害者を対象とする情報処理学科が設置されている。筑波技術短期大学では、パソコン機を使ってプログラミングの教育が行われている。5)"

4、機械工
"視覚障害者の製造現場への進出は、戦時中に視覚障害者がボール盤作業、プレス作業、機械組立などの仕事に従事したことに端を発し、現在ではプレスやタッパーを使った部品加工から、マシニングセンター、NC旋盤、ワイヤーカット放電加工機、NCルーター等のNC工作機械を使った高度な機械加工までさまざまな分野に及んでいる。中には、三次元CAD/CAMやNCタレットパンチプレスのプログラミング作業に従事している人もいる。
 プレスやタッパーでの単純反復的な加工作業においては、ジグを工夫したり手で材料のセットを確認しながら作業をする。作業に熟達してくると、晴眼者と同程度の能率で作業をこなせるようになる人もいる。また、プレス作業での金型のセットも、多くの場合、視覚障害者が単独でやっている。
 NC工作機械での加工の場合は、従来の旋盤やフライス盤などの熟練を要する工作機械と違って目盛りに頼る必要がないため、視覚障害者でも高度な作業に従事することができます。また、一部のNC工作機械には音声出力機能を付加でき、加工プログラムを音声で確認しながら使用できます。
 機械加工においては測定が不可欠ですが、視覚障害者の場合、副尺の目盛りを読みとらなければならない従来のノギスやマイクロメーター等の使用は困難である。しかし、一部の弱視者は、デジタルの測定器を使用して仕事をしている。また、これらのデジタル測定器に音声出力装置を接続して、全盲者でも確認できるようにした例もある。
 図面の読み取りでは、弱視者はルーペや拡大読書機を使用したり、拡大コピーをして読み取っている。場合によっては読み取りやすくするため図面を色分けしている場合もある。
 視覚障害者を対象とした機械工の養成訓練は、(社福)日本ライトハウス視覚障害リハビリテーションセンターで行われており、1年コースと2年コースに分かれている。1年コースでは、プレスやタッパーを使って自動車、自転車、家電製品などの部品加工を中心とした訓練が行われている。2年コースではNC旋盤、マシニングセンター、ワイヤーカット放電加工機などを使って、NCプログラミングから機械加工までの訓練が行われている。どちらのコースでも、各種機械部品加工やプレス金型の製作など、実際の製造現場を想定して訓練を行っている。6)"

 中途視覚障害者にとって、実際に可能な職種として、本人がその職種に就きたいと思えるか、訓練を受けることが可能であるか、訓練を受けた後の就職は可能であるかがポイントとなると思われる。
中途視覚障害者にとって、新たに職業訓練をすることになり、それは今まで自分がやってきた仕事とは完全に違う職種になることもある。また、今までの仕事と、これからの仕事との間にギャップを感じ、葛藤することも考えられる。中途視覚障害者自身が、その仕事に就きたいと思えることが、重要と考えられる。
訓練を受けることが可能かどうか、訓練を受けた後の就職が可能であるかは、訓練施設・機関の現状として、次の章で述べることにする。

第四節 日本と欧米の障害者雇用対策
 労働市場における障害を配慮した雇用制度として、障害者雇用割当制度が存在する。そのなかでも、障害者雇用率・納付金制度から、雇用機会拡大の雇用システムについて、欧米先進諸国と日本とで比較検討してみる。

1、障害者の区分
 欧米の障害者雇用対策を、みると、各国とも基本法を制定して対応している。しかし、その対象となる障害者の範囲について、"わが国では「障害者」として、損傷の部位または程度の区別になっているのに対し、諸外国では、勤労等に困難性のある者、というような、より実際的な定義付けをしている国が多い7)"といった違いが見られる。わが国と比較して、"割当雇用等との関連から見ても重度の障害者の雇用にとっては不利になることが多く、就労したときのハンディキャップがあいまいにされている8)"と考えられる。この障害者の区分の違いから、障害者雇用対策の違いが生まれたと考えられる。

2、障害者雇用の国際比較
日本障害者雇用促進協会の研究では、現状の総合評価と展望を以下のように述べている。

"長期間を経て、雇用率のアプローチは、リハビリテーション、雇用準備および就職サービス、ジョブコーチ等の支援、事業主および労働者に対する財政的奨励策、補助機器及び職務や職場の改善に対する補助金、事業主の態度の改善や自主的活動、病気や障害を理由とした差別を禁止する法律等、一般市場における障害者雇用の促進を目指す一連の政策中の1つでしかなくなった。これらの政策の中で、雇用率制度は突出した中心的制度ではなく、他の施策により補完される場合にのみ有効である、と考えられることが多くなった。雇用率に意味をもたせるために、政策上他の施策と組み合わせることが必要となる。これらの方策は、しばしば雇用率の政策そのものより重要となる9)"

 このことから、欧米先進諸国での割当雇用制度は、障害者雇用の中心的制度でないことがいえる。また、"これまで雇用率制度を採用したことがない国々、アメリカ、オーストラリア、カナダが注目されている10)"ことからも、割当雇用制度自体より、障害者がなぜ雇用市場において不利な状態にあるかを理解し、障壁を克服していくという差別撤廃のアプローチに傾きつつあると考えられる。
 また、障害者雇用政策の構造は、"差別禁止、割当雇用制度、政府雇用の3種類に分けることができる"11)。
さらに、"各国の障害者雇用政策の構成は、アメリカが差別禁止、イギリスが差別禁止および保護雇用、ドイツ・フランスは割当雇用および保護雇用、北欧が政府による雇用に分けられる"12)。日本が割当雇用のみに障害者雇用政策を重視していることと比較すると、アメリカと北欧以外の国では複数の施策を構成に入れていることになる。複数の施策を取り入れることで、対象範囲や保障される内容が広がることにつながると思われる。そう考えると、割当雇用のみに重視しているわが国では、対象範囲や保障される内容は狭いといえる。その結果、視覚障害者の職場・職業復帰が困難になっていると考えられる。
 また、割当雇用制度の短所として、"障害者を別枠で採用するということにより、差別的待遇を生み出している点、多くの企業が納付金の支払いを選択しているが、その納付金により障害者雇用の支援を行う構造的矛盾(全企業が雇用率を達成すると障害者雇用の支援金が失われる)点13)"がある。

3、日本の視覚障害者の雇用対策
 わが国の視覚障害者の雇用対策は、これまで「障害者の雇用の促進等に関する法律」及び「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づく「障害者雇用対策基本方針」(運営期間平成5年度から平成9年度まで)に基づいて行われてきた。
 わが国では割当雇用制度を重視しているが、各国の割当雇用制度を見ると、"わが国が1.8%〜2.1%であるのに対して、欧米諸国では、3%〜10%と相当高い数字である14)"。また、企業の実雇用率は法定雇用率を下回った状態にあるとともに、障害の重度化や障害者の高齢化も進展しており、近年の景気の動向も重なって、障害者を取り巻く雇用環境は依然として厳しいものとなっている。他に、"解雇制限(ドイツ・イギリス)や違反者に対する罰則(イギリス)も見られ、未達成企業からの納付金もわが国の場合よりは高い。アメリカでは、連邦政府と契約している企業、又は補助を受けている公的機関および民間団体における障害者の雇用等について、差別撤廃の義務付けがなされている15)"。
 このようにわが国では割当雇用制度を重視しているが、その割当雇用制度においても各国に劣っているといえる。
 視覚障害者に関係する施策として、特定求職者雇用開発助成金、職業適応訓練・短期職場適応訓練、障害者雇用納付金制度に基づく助成金、障害者雇用継続援助事業に基づく助成金などがある。
中途視覚障害者本人が利用できる制度としては、職場適応訓練・短期職場適応訓練がある。この制度は、都道府県知事が事業主に委託し、視覚障害者等の能力に適した作業について、6ヶ月以内の実地訓練を行い、それによって職場の環境に適応することを容易にし、訓練修了後は事業所に引き続き雇用してもらおうという制度である。しかし、この訓練期間は盲学校での職業訓練期間(3〜6年間の在学期間)、職業訓練施設における職業訓練期間(1年〜2年)と比べても明らかに短い。
 訓練期間が短いということは、雇用主にとっては、早期に従業員を職場・職業復帰させる期待が持てるのかもしれないが、中途視覚障害者にとっては、短い訓練期間のあいだに、視覚障害を患ったことに対しての生活訓練と視覚障害者として働くための職業訓練の2つを同時に行わなければならないという問題が考えられる。
 また、中途視覚障害者にとっては、訓練に移行する前に、視覚障害者になったという現実を受け入れる、障害受容も大きな問題であると考えられる。視覚障害は感覚障害の一つであるが、消失した視力を回復させることは、非常に困難なことであり、他の機能障害にくらべ、医学的な援助は限られていることからも、中途視覚障害者にとっての障害受容は、他の障害者と比べてもはるかに難しいと考えられる。つまり、長い時間をかけて視覚障害を受容できたときには、職業適応訓練・短期職場適応訓練制度を利用したあとだったという中途視覚障害者も少なくはないと思われる。
 このことから、日本の視覚障害者に対する雇用政策では中途視覚障害者が、職場・職業復帰を果たすことは困難であるといえる。





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